施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN07|個別指導の選定方法

平成28年7月29日

個別指導について

今回は、適時調査についてお話させていただく予定でしたが、予定を変更して個別指導についてのお話をさせていただきます。

つい最近、私共の顧問先の病院から「厚生局の個別指導を受けることになったので相談に乗ってほしい。」との連絡があり、お伺いさせていただきましたところ「個別指導は初めてなので、何をどのようにしたらよいか、さっぱり見当がつかないので大変不安です。」のようにお話がありました。

適時調査は数年に一回は定期的に回ってくるものなので、どの病院も何度か経験があるようですが、個別指導は選定方法が適時調査とは違うことから、初めての経験となることが多いのは事実です。特に「なぜ自分の病院が選定されたか」の理由がほとんどわからないため、ここに大きな不安があるようですので、個別指導の仕組みについてお話をさせていただきます。

まず、病院を監督している行政組織が立ち入りで実施する調査や検査などには次のようなものがあります。

  • 自治体が実施するもの
  1. 医療法第25条の規定により実施される立ち入り検査「医療監視」(特定機能病院は厚生局が実施)…ほとんどの地域で毎年実施
  2. 生活保護法第50条に基づく指導…地域によって差があり、集団指導や立ち入りの指導を実施
  • 厚生局が実施するもの
  • 施設基準の状況確認のために実施される「適時調査」…数年に1回程度定期的に実施
  • 健康保険法第73条に基づく「指導」…選定により不定期に実施
  • 健康保険法第78条に基づく「監査」…不正請求などの場合に実施

上記④でお示しした、健康保険法第73条に基づく指導には次のようなものがあります。

  • 集団指導会場に集めて説明会形式で実施されるもので、新規開業した保険医療機関を対象に実施されるものや診療報酬改定時に実施される説明会などがあります。
  • 集団的個別指導レセプトの平均点数が高い保険医療機関が対象となり、説明会形式で実施される部分と簡易な個別面談によって実施される部分が合わさったものですが、近年ではほとんどの地域で、説明会形式の部分だけが実施されているようです。
  • 個別指導個別に実施されるものですが、新規に開業して半年から1年程度で行われるもの(新規個別)、単にレセプトの平均点数が高い場合(高点数個別)、指導を実施すべき情報がもたらされた場合(情報個別)などがあります。また、前回の個別指導で理解不十分と判断され、その後の改善状況を確認するために、再度の指導を受ける場合(再指導)もあります。ここで言う、「新規個別」を除いたものが一般的に「個別指導」と言われているものに該当いたします。

個別指導に選定される理由の中で一番割合が多いのがレセプトの平均点数が高い場合、いわゆる「高点数」です。この高点数における選定方法ですが、病院の分類を「一般」「精神」「その他」の3つに区分して、各都道府県単位で3つの区分ごとにレセプトの平均点数を算出し、各病院の平均点数と都道府県単位の平均点数に1.1倍を掛けた係数とを比較して、これを超えた病院について県内全体の病院数の上位8パーセント(仮に病院数が100なら8件が該当)が集団的個別指導に該当し、同じように上位4パーセントが個別指導に該当することとなります。

集団的個別指導と個別指導の関わり合いですが、例として平成28年度を1年目としてのシミュレーションを図でお示しいたします。

集団的個別指導と個別指導の関係性

このように、平均点数が常に上位に該当している場合には、平均点数を超えた年から3年後には「個別指導」に該当する確率が高くなり、「集団的個別指導」に該当したら2年後には「個別指導」が回ってくると考えていただきたいと思います。高点数で選定される場合には、「集団的個別指導」を飛び越えて、いきなり「個別指導」に選定されることはありませんので、集団的個別指導の通知が来たら要注意と考えてください。

高点数以外の理由で選定される場合としては、いわゆる「情報」に起因するものがあります。これは「診療報酬請求が適切に行われていないと疑われる情報が厚生局にもたらされた場合」になり、上記のような予告などもなく通知が送られてきますが、具体的には次のようなものが該当いたします。

  1. 病院職員や元職員などからの告発
  2. 患者からの問い合わせや告発
  3. 審査支払基金などからの情報提供など

なお、情報提供には厚生局内部による情報も含まれます。つまり、厚生局が実施している適時調査において不適切請求の疑いを招くようなことが見咎められますと、それが情報とされ個別指導の対象にされることも十分にあり得ますので、適時調査に対する対応は適切にしていただくことは大切です。特に、看護要員数や月平均夜勤時間数の計算根拠などに不審な点が見られますと、看護師水増しなどの疑いを招く可能性が高いので、様式9は正確に作成し管理していただくことは言うまでもありません。

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このことから既にお分かりいただいたことと思いますが、情報が理由による個別指導では、厚生局は不適切請求に関する資料を得ている(場合によっては患者を特定していることもある)可能性が非常に高いことから、診療報酬の返還を指摘されることはほぼ間違いありませんし、対応を間違えますと不正請求を疑われ「監査」に移行することもありますので、より慎重な対応が求められます。

初めて個別指導の通知が届きましたら2年前に集団的個別指導に呼ばれたかどうかと、レセプトの大まかな平均点数をイメージしてください。2年前に集団的個別指導に出席し、前年度もレセプト平均点数が高いようでしたら、「高点数」が理由で選定された個別指導であることはほぼ間違えありませんので、少しはホッとしていただけるものと思います。

参考までに申しますと、私共の法人がある地元の群馬県における数値ですが、平均点数に1.1倍を掛けた係数は平成27年度のデータとしては、一般病院が約5万6千点強、精神病院が4万2千点弱、その他病院が6万2千点強となっており、他の年も1割を超えての変動は見られなかったようです。他の都道府県では少し違った数値になるものと思われますので、あくまでもこの数値は参考として見ていただきたいと思います。

それでは、2年前に集団的個別指導に呼ばれていないときはどうなるかと申しますと、間違えなく「情報」が理由での個別指導になりますので、要注意です。情報がどのようなものかを厚生局は教えてはくれませんが、過去1~2年くらい前に遡って職員や患者、審査支払基金などと診療報酬の請求に関して大きなトラブルや遣り取りなどがなかったか思い出してみてください。もしかすると、その中に情報の原因と推測できるようなものが見つかるかもしれません。

個別指導につきましての概要は以上のようなお話ですが、また機会がございましたら、もう少し細かいお話をさせていただきたいと思いますし、適時調査の実施方法が昨年までと比べ少し変わっているようですので、これについても具体的な情報が入りましたら、お話させていただきたいと思います。

また、そろそろ病棟の看護職員が夏休みを取得する時期になってまいりました。コラムのバックナンバーのNO.2の前半部分にあります「足りているの思い込みは大変危険」には、この時期の失敗談をもとにしたお話がありますので、お時間があるときにご一読いただければと思います。

コラムNo.2「日常点検の重要性〜足りている、その思い込みが一番危険なんです〜」はこちら
竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。