施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN19|やってしまいそうなうっかりミスと返還金について その1

平成29年9月30日

やってしまいそうなうっかりミスと返還金について

施設基準については、そのルールの中に人、設備、器械・器具、書類、組織などいろいろなことについて細かな決まりがあります。この決まりをきちんと管理しておりませんと知らないうちに施設基準のルールから逸脱してしまうこともあり得ないお話しではございません。

今回は、病院側において施設基準の管理を怠っていたことにより発生してしまったミスをいくつかご紹介させていただきます。

  • 常勤医師がいつのまにか非常勤になっていた
  • 脳血管疾患等リハビリテーション料などの疾患別リハビリテーションには、専任の常勤医師の配置が求められているものがあります。

    リハビリテーション科に常勤医師が配置されている病院はほとんど見たことがありませんので、この「専任の常勤医師」が実際にリハビリテーションの現場に入って治療に直接参加しているような病院は数少ないものと思われます。

    一般的には「専任」ですから外来診療などのいろいろな業務を兼務して、場合によっては「専任」が名ばかり状態になってしまっているような病院もあるように聞いております。ひどいところでは、リハビリテーションのスタッフや施設基準の担当者ですら誰が「専任の常勤医師」であるかを把握していないところもあったりいたしました。

    極端な例としては「専任の常勤医師は誰ですか。」の質問に対して、慌てて届出書の控えをめくり出して「ここに書いてあるのは○○先生ですが、今は居ません。」のような答えが返ってくることも珍しいお話ではありません。このように、専任医師をきちんと管理していませんと、専任医師不在となってしまうことがあります。

    最近、耳にした事例をご紹介させていただきます。

    脳血管疾患等リハビリテーション料、運動器リハビリテーション料の施設基準において届出していた専任の常勤医師を法人の関係クリニックの外来に出すようになったことから、病院の勤務時間数が32時間を下回ってしまい、常勤ではなくなっていた事例がありました。

    原因としては、次のようなことだったようです。

    1. 雇用契約が医療法人としての契約となっており、法人から指定された施設での勤務時間数の合計が32時間になっている。
    2. 医療法人が経営する近隣のクリニックにおいて、外来担当医師が不足したため、これを補うためにそのクリニックの外来勤務に毎週4時間程度出るようになった。
    3. 病院以外で4時間程度の勤務が発生したため、病院での勤務時間を4時間減算して、病院28時間、クリニック4時間で合計32時間勤務とした。
    4. 施設基準の担当者もリハビリスタッフも、当該医師にクリニックの勤務が発生したことを知らされていなかった。なお、後で気が付いたようであるが、個々の担当者は病院での勤務時 間数を把握していなかったため、減算されて非常勤状態になっていることに気が付かなかった。

    このように、勤務している医師の人事管理を病院ではなく法人として行っているような場合、法人として32時間勤務のような雇用契約や約束がされているものがあるようです。法人組織で人事管理を行っているため、法人内の施設に人員の過不足があったりいたしますと、法人内での勤務時間数が超えないように複数施設での勤務を掛け持ちさせるようなことが発生し、個々の施設においては「常勤」の状態が維持できないことが発生するリスクが高いものとなっておりますので十分に注意してください。

  • 経管栄養食を18時前に実施していた
  • パッケージ製品の経管栄養食を病棟内の倉庫などに保管し、その在庫管理を病棟において行っている病院があるようです。また、看護職員の認識がきちんと教育されていませんと「経管栄養は食事ではない」と誤解している看護職員が少なからず存在するようです。

    配膳車で運ばれてくるものだけが「病院給食」つまり「食事」と錯覚してしまうこともありがちなお話しと思われることから、このような2つの条件が重なってしまったときにルール違反の状態に簡単に足を踏み入れてしまうことがあるようです。

    入院時食事療養(Ⅰ)の届出をいたしますと、夕食は18時以後(例外として、病床数が概ね500床以上であり、病院の構造上の問題で厨房から病棟への移動にかなりの時間を要するなどの特別な理由により、18時以後の病棟配膳を厳守すると不都合が生じると認められる場合には、17時30分以後から開始されることで、18時を中心とした配膳時刻が暫定的に認められています。

    また、障害者施設等入院基本料、特殊疾患入院施設管理加算、特殊疾患病棟入院料を算定している病棟においては、個々の患者の病状に応じた食事の提供が行われている場合には、18時前の配膳があっても差し支えないこととされています。

    これは自己による摂食が出来ない患者に対しては、食事介助などの手間がかかるために設けられた特例ですので、当然ですが、自己摂食できる患者は18時以後の配膳をしなければなりませんので、注意してください。)と決められております。

    経管栄養であっても食事療養費を請求すれば、それは食事になることから、夕食は18時以後の要件が該当することとなります。 しかし、18時前に経管栄養のパッケージをベッドサイドにセットして接続することが常態として発生している病院の数は少なくないようです。

    原因としては、次のようなことだったようです。

    1. パッケージ製品の経管栄養食を病棟内の倉庫などに保管し、その在庫管理を病棟単位で行っており、配膳車で運ばれて来ないことから看護職員が「病院給食」つまり「食事」ではないと錯覚してしまった。
    2. 日勤帯の看護職員の勤務時間は17時30分頃であることから、夕食の18時には人手か足りず手が回らなくなることがあるため、日勤帯の看護職員が帰る前に病棟の倉庫からパッケージ製品の経管栄養食を持ち出して、セット・接続をしてしまった。
    3. 配膳車の病棟到着が18時以後であり、通常の患者の食事が全て18時以後であったことから、食事は全て18時以後に実施されていると錯覚してしまい、病棟の実態が栄養課や施設基準の担当者に加え看護部長ですら把握できず、そのまま放置されてしまった。

    このように、病棟において食事(パッケージ製品の経管栄養食)を現場の都合で自由に取り扱えるような管理をしていることがありますと、食事療養のルールをきちんと理解させ18時ルールを厳格に管理しなければ、夕食開始時間のフライングはどこの病院でも発生してしまうリスクが高いことを認識いただきたいと思います。防止策としては、経管栄養食はパッケージ製品であっても、配膳車と一緒に病棟に運び込むようにすればよろしいのではないでしょうか。

  • 施設基準で定められている組織がなかった
  • 施設基準の中には「部門」や「チーム」が組織上で位置付けられていなければならないものがあります。

    医療安全対策加算では「医療安全管理部門」を設置しなければなりません。部門ですから病院の組織になります。部門の意味は辞典でも「役割を分担させるために組織を区切る単位」とされており、病院内の部署として該当するものが設置されていなければなりません。

    この「医療安全管理部門」を「医療安全管理委員会」と同一と錯覚してしまい、該当する部署を病院内に設置しなかったことにより、基準のルールを満たしていないことの指摘を受ける事例が増えているようです。

    委員会の意味は辞典では「委員によって構成される合議制の機関。また、その会議。」とされており、先にお示しした「部門」の意味とは全く違うことは誰でもご理解いただけると思います。

    また、入院基本料においては医療安全管理体制の基準の中で「安全管理のための委員会が開催されていること」となっており、適時調査においても当該委員会の設置要綱などが確認され、基本的なルールの中で委員会の存在が必須となっている訳ですから、その上の加算を算定するルールの中で、わざわざ同じものを「設置しなさい」とは言わないのが普通です。加算のルールで「設置しなさい」と言っている訳ですから、基本的なルール上のものとは別に設置しなければならないと理解するのは当たり前のことと思います。

    設置したことの説明は、通常は病院組織図において説明し、該当部門が組織図上に存在することを説明することが一番理解されやすい方法となります。

    最近では、組織図上に当該部署が明記されていなかったことを理由に「医療安全管理部門」がないと判断され、結果として改善の指摘を受けるだけではなく、返還金の指導をされるケースが多くなっております。

このように、書類上で明確に確認できる不備は、白黒が付けやすいことから「基準を満たしていない」と判断されて加算点数の返還が指導されやすいものになりますので、特に注意してください。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。