施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN02|日常点検の重要性

平成28年2月1日

4月の新規採用者が配置されるまでの間は看護職員数が1年間で一番少なくなる時期になってまいりました。今回は「足りているの思い込みは大変危険」の考え方で失敗しないことと、「月平均夜勤時間数は変えられる」ことについてのお話をさせていただきます。

足りているの思い込みは大変危険

 7対1や10対1などの入院基本料における看護職員数と看護職員の月平均夜勤時間数などは、どの病院においても「様式9」により毎月確認されているものと思います。
一般的には、急な退職などによる人員不足を回避するために、ある程度の余裕をもった看護職員数が配置されている場合が多いようですので、確認結果が要件不足になるようなことは起こりにくいと考えられます。

しかし、余裕ある職員数を病棟に配置したからと言って、「様式9」による看護職員数や月平均夜勤時間数の確認を怠りますと、気が付かないところで「要件不足に陥ってしまった」のような大きな失敗を招いてしまうことが起こり得るのです。
配置数がギリギリの病院では毎月必死になって「様式9」による確認を細かく実施していますから、このようなミスは発生しにくいようですが、1割程度の余裕がある病院の方が「うちは看護師が少しくらい辞めても大丈夫だから」のように油断してしまい、後で「かなり危なかったです」のような話を耳にすることがあります。これは「様式9」の作成が面倒だからと言って、確認を怠ってしまったことが全ての原因です。

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最近は公立系の病院を中心に夏休みが3日程度付与されているところが多いようです。
病院側は数か月間の中で交代で夏休みを取得できるようにしていますが、余り気味の有給休暇と連続して毎月の公休以外に5~7日間程度の連続休暇を取得する方も多いようです。
「当院では3カ月間の中で交代で取得するから足りなくなるはずはありません。」は危険な思い込みです。現場の看護師の皆さんが、予定をきっちりと3分の1に分けて取得することはありえません。どこかの月に偏ることもあり得る話です。
公休とは別に夏休みを含めた休暇を5日取得すると月当たり13日位(暦の関係で15日の場合もある)が休みになり、出勤が17日程度に減ります。通常は22日程度の出勤ですから23%弱の戦力ダウンです。きっちりと3分の1に分かれればマイナスは8%程度に収まりますが、どこかに偏ればマイナスが10パーセントを超えることはあり得る話です。
実際に危険な状況に陥ってしまった例としては、偏った夏休みの取得に加え長期の院外研修などの要因などが偶然に重なってしまい、2カ月連続で1割以内のマイナスになっていたようです。この病院は100床未満でしたから「連続3カ月以内で1割以内」の特例が適用されセーフとなりましたが、もし100床以上の病院でしたら「連続1カ月以内で1割以内」をオーバーしてしまい完全にアウトの状態です。

危ないのは夏休み期間に限ったことではありません。年末から4月頃までも危ない要素は多いようです。
看護師などの医療従事者は4月に新規採用してから翌年の4月までは徐々に減少する傾向にあります。年末年始のお休みに加え、年末頃からはインフルエンザなどによる突発的なお休みのリスクも高くなります。職員自身がインフルエンザなどに罹患しなくても、家族(特に子供さん)が罹患したことにより看病のために仕事をお休みしなければならないケースもあります。 新型インフルエンザが流行した頃には、入院基本料に関する看護職員数が足りなくなった場合の一時的な特例がありましたが、現在ではこれを適用することはできませんので、通常の要件の範囲内で収まるようにしなければなりません。
もし、要件から外れるような看護職員数の大幅な減少があれば、適切な届出に変更するようになりますが、収入減は避けられません。

このようなリスクを回避するためにも、「様式9」による確認を毎月実施することは当然として、翌月の勤務予定が決まった段階で、予定による「様式9」を作成して、どの程度の余裕があるかなどの事前確認することが大切です。そして、どうしても要件から外れるような人員減があった場合には、早めに足らない人員分を病棟以外の部署から遣り繰りするなどして、要件内に収まる工夫も検討しなければならないでしょう。

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月平均夜勤時間数は変えられる

次のお話ですが、入院基本料の施設基準の管理で何処の病院も苦労されているのが、看護職員の月平均夜勤時間数72時間を維持することと思われます。
「看護職員の夜勤時間の総数」を「実際に夜勤した人数」で割り算するだけのことですから、計算は一見単純そうに見えますが、実際には複雑怪奇なルールがあり、ベテランの事務職員の方でも気が付かないうちに「大きな落とし穴に陥ってしまった」のようなお話を耳にすることがあります。

それでは、皆さんの病院では夜勤時間の16時間枠の設定を何時スタートにしておりますでしょうか。
この16時間枠の設定は病院の自由裁量です。ルール上は夜10時から朝5時までを含み、16時間の枠が実際の日勤帯に半分を超えて食い込んでいなければ設定は自由なのです。17時スタートでも18時スタートでも差し支えありません。よく、夜勤帯の勤務始まりを16時間枠のスタートに合わせている病院を見かけますが、前後にずらしても先ほどのルールを満たしていれば何ら問題はありません。
極端な事例では、19時スタートにして終了を翌日の昼の11時とか、15時スタートにして終了を翌日の朝の7時のような例も見かけたことはあります。
普通の方は「なぜ、このような変則的な設定をしているのか」と疑問に持つのは当たり前のことです。しかし、これには月平均夜勤時間数の計算における複雑怪奇なルールが影響しているのです。

計算式で分子になる「夜勤時間数」は、看護職員が16時間枠に勤務した時間が全て含まれます。実際の勤務が日勤当番か夜勤当番かは関係ありません。あくまでも、病院の自由裁量で設定した16時間枠の中に発生した勤務時間が全て計算対象となります。
一方、計算式で分母になる「夜勤従事者数」は、1日から月末までに計算対象病棟で夜勤を16時間超えて(短時間正職員は12時間以上)行った看護職員数が計算対象となります。
皆さんも何となくお分かりになったことと思いますが、16時間枠を変えることにより、分子と分母の数字に変化が生じ、計算結果に相違が出ることとなります。
実際のところ、この仕組みに気がついた病院が16時間枠を30分(0.5時間)単位で前後に変更して10通り位の診断をして、自分の病院に一番有利となる時間枠を探し出したところもありました。
もし、時間に余裕がありましたら、一度試されてみたら如何でしょうか。思いもよらない結果に驚かれる病院も少なくないと思います。

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次回は、月平均夜勤時間数の計算について「日勤勤務者の夜勤時間」と「夜勤をしない夜勤従事者」のお話しをさせていただきたいと思います。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。