施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN03|夜勤の意外な盲点

平成28年2月18日

この時期、診療報酬の改定については既に中医協の答申も出ておりますが、不明確な部分もございますので、現時点では改定後の内容によるお話をさせていただくことができません。大変申し訳ございませんが、今回のお話は現状のルールにおける取り扱いとしてお読みいただきたいと思います。

中医協の答申では、月平均夜勤時間数の計算方法に変化があるようです。7対1と10対1入院基本料ではあまり変化がないのですが、従事者数の要件が「16時間超」から「16時間以上」に緩和され、それ以外の入院基本料では「16時間超」が「8時間以上」に大きく緩和されています。
簡単に申し上げれば、8時間の夜勤が3回必要だったものが、2回または1回で従事者数の要件に当てはまることとなります。これは、かなりの要件緩和と思います。また、病棟と外来の兼務者の取り扱いにも変更があるようです。細かな取り扱いは、3月4日頃に公表される予定の「告示」や「通知」と厚生局が実施する改定の集団指導(説明会)により、ご確認をお願いいたします。

日勤者の夜勤時間

以前にもお話しさせていただきましたが、入院基本料における月平均夜勤時間数を計算する場合には、病院が設定した夜勤時間枠の16時間の中に看護職員が勤務した時間数が計算対象となります。

日勤者においてもこの時間枠に勤務していると、その時間は夜勤時間数として計算対象にしなければなりません。
日勤者は8時間勤務だから普通に考えれば夜勤時間枠に入り込むはずはないと思われがちですが、実際には勤務途中に昼休みがあることから、出勤から退勤までの時間数は8時間を超えてしまい、出勤が8時30分で退勤が17時30分などのように出勤から退勤までが9時間程度になっているのが一般的です。

このため、申し送り時間を考慮しなければ、必ず1時間が夜勤時間枠に入り込むこととなります。同様に、「早出」や「遅出」の勤務者なども必ず夜勤時間枠における勤務が発生することとなることから、このように発生した夜勤時間数を計算から漏らしてしまいますと、大変なことになってしまうケースもあります。

実際に、この仕組みを誤解してしまい、全ての早出、遅出勤務者に発生していた夜勤時間を計上せずに、月平均夜勤時間数を計算していた病院が行政側の指導により再計算をしたところ、計算式の分子が膨れ上がって月平均夜勤時間数は72時間を軽く超えてしまい「入院基本料が過請求状態になってしまった」のようなことは珍しくありません。

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夜勤時間数などを検証すべき「様式9」は、通常は手作業で数字を入れて計算します。医療関係団体で提供しているエクセルシートでも手作業で、日勤枠に「8」、夜勤枠に「1」のように入力いたしますから、誤解による計上誤りをはじめとして、記載や入力誤りにより正しい計算がされないことも多々あるようです。日勤者であっても、夜勤時間帯に入り込んでいる勤務時間数を様式9の計算に漏らさないことを忘れてはいけません。

夜勤をしない夜勤従事者

逆に、この仕組みをよく理解して日勤者に夜勤時間をわざと発生させている事例もございます。
夜勤時間数が16時間を超えれば(短時間正職員は12時間以上になれば)夜勤従事者数にカウントできるようになりますので、夜勤回数が少なく16時間に満たない者がいる場合には、このようなテクニックを使うことにより、16時間を超えた夜勤時間数を導き出して夜勤従事者数にカウントして計算式の分母を増やして、計算結果を優位にしている病院も存在いたします。
入院基本料における月平均夜勤時間数を計算する場合には、病院が設定した夜勤時間枠の16時間の中に勤務した看護職員の時間数が計算対象となるからです。

この時間枠に勤務したものは夜勤勤務でなくても夜勤時間数としてカウントいたします。簡単に言ってしまいますと、普通の日勤と遅出や早出勤務だけで、実際の夜勤を1回も行っていない場合であっても、結果として夜勤時間数が16時間超えていれば夜勤従事者になれることとなります。
 夜勤が出来ない看護職員を病棟配置しても、このような計算方法を行えば夜勤従事者数にカウントできるため、実際に取り入れている病院もございました。例えば、夜勤時間枠に2時間程度入り込む「早出」や「遅出」の勤務を10日間行い、残りの12日間は普通の日勤勤務であったとしても、夜勤時間数の合計が20時間になりますから、病棟専従の常勤者なら「夜勤従事者1人」としてカウントできることとなります。

しかし、世の中にはもっと上級のテクニックを使っている病院が存在します。
普通の日勤勤務者を夜勤従事者にしてしまうのです。「そんな魔法みたいなことが出来る訳が……」と考えるのはもっともです。でも、以前にもお話しさせていただきましたが、夜勤時間枠の16時間の設定は病院が自由に決められるのです。

例えば、日勤勤務が9時00分から17時00分までの8時間(解りやすくするために、昼休みや申し送りは考慮しない8時間勤務を例としました。)である病院が、夜勤時間枠の16時間を17時から翌朝の9時に設定すれば日勤者の夜勤時間数は0になります。
しかし、夜勤時間枠を15時から翌朝の7時に設定するとどうなるでしょうか。
15時から17時までの2時間が夜勤時間数の計算対象となりますので、病棟専従の常勤者なら1カ月間の夜勤時間数が16時間を超えるのは確実です。

それでは夜勤時間枠を16時から翌朝の8時に設定するとどうなるでしょうか。
16時から17時までの1時間が夜勤時間数の計算対象となりますので、月当たり22日程度出勤する病棟専従の常勤者なら1カ月間の夜勤時間数が22時間となり、通常の日勤勤務しかしていないのに「夜勤従事者1人」となる訳です。このテクニックでは分母である「夜勤従事者数」は確かに増えますが、日勤者に夜勤時間数をカウントさせることから、分子である「夜勤時間数」も増加いたします。

このため、全ての病院がこのような結果になる訳ではないのですが、傾向としては夜勤が2名体制であれば、日勤者が毎日平均的に8名より少なく、日勤勤務のみで夜勤時間数が0の病棟専従の常勤看護職員が、1病棟あたり3名程度以上存在すると夜勤時間枠を1時間変更しただけで、月平均夜勤時間数が減少する可能性があります。

前回お話いたしました「月平均夜勤時間数が変えられる」の仕組みは、このような実態による計算結果なのです。 またお話しさせていただける機会がございましたら、改定後の内容でお話しさせていただきたいと思いますので、ここまでのお話は現行のルールによるものであることに、ご理解をよろしくお願いいたします。

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竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。