COLUMN06|届出チャンスは2回だけ
平成28年6月1日
一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の指導者研修について
前回、7対1入院基本料と看護必要度加算の再届出の時期につきましてお話しさせていただきましたが、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(以下、「看護必要度」と表現させていただきます。)の指導者向け研修が、今年は7月24日に実施されるようです。2年前の改定時は6月下旬でしたので、前回はこれを念頭に置いてお話をさせていただきましたが、状況が変わりましたことからお話を少し修正させていただきます。
この指導者向け研修の修了者により看護必要度の院内研修を実施することになりますと、一番早いタイミングが8月実績9月届出です。しかし、7月中に病棟の看護師などに対しての評価者研修を終了して、8月1日から新しい評価票に切り替えしなければならないことと、手術を担当する医師が夏休みを取得して手術件数が減りますと、看護必要度の要件を満たす患者数が伸びるとは思えませんので、このタイミングでの届出は看護部と医局の全面的な協力がないと不可能です。
それでは、9月実績10月届出のタイミングはどうかと申しますと、評価者の院内研修も終了し、医師の夏休み取得も落ち着いていると思われますが、9月30日までの実績数値を計算して、必要な様式をすべて記載し、添付書類もすべて用意(単に看護必要度の要件を満たす患者割合の数字だけを届出するのではなく、様式9を含めた入院基本料の届出用紙をすべて作成して提出することとなります。)することとなりますので、2日間の期間で準備することは並大抵のことではありません。それに加え9月だけの一発勝負ですから万が一、数字が要件を満たさないこととなりますと、もう後がありませんので届出は出せないこととなってしまいます。この場合には他の基準に変更するなどの対応が必要となり、病院収入は減収となってしまい経済的な打撃に見舞われることとなります。添付書類の様式9は細かなデータ入力が必要となり、データの記載(入力)誤りや勤務表の見誤りによる誤作成などがありますと、届出自体が無効となってしまうこともあり得ることですので、より慎重に対応するようにいたしましょう。正直なお話では、厚生局の担当者の方もこのタイミングでの届出はお勧めしていない方が多いようです。
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なお、上記でお話しいたしました7月24日の指導者向けの研修ですが、すでに定員に達している地域も多くあり、今から申し込みしても研修を受けられないことがあります。
もし、そのような場合にどうなるかと申しますと、院内研修を担当する指導者(講師)につきましては、厚生労働省保険局医療課長通知「基本診療科の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の中で、従前より「所定の研修を修了したもの(修了証が交付されているもの)又は評価に習熟したものが行う研修であることが望ましい。」という表現がされております。この解釈については「望ましい」という言葉のとおり『義務ではない』ということになります。このことから、院内研修の指導者(講師)は、7月24日に実施される研修の修了者でないと『院内研修』の講師を務められないということではありません。
しかしながら、「評価に習熟したものが行う研修であることが望ましい」という表現が明示されていることから、厚生局は「習熟したものに該当することが説明できる必要がある」と指導しているようです。もし、上記研修の機会を活用されず自己学習により「習熟したもの」とされる場合には、どのようなスキルや知識を持ち、新しい評価票についてどのような学習を行ったかについて、適時調査などできちんと説明することができなければ、評価票の評価が認められず入院基本料等の過請求を指摘される可能性もありますので、十分に注意していただく必要があります。
ちなみに、評価票の記載は次に掲げる入院基本料等を届出している場合が該当いたします。
- 7対1入院基本料(一般病棟入院基本料、結核病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料(一般病棟、結核病棟に限る。)及び専門病棟入院基本料)
- 10対1入院基本料 (一般病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料(一般病棟に限る。)及び専門病棟入院基本料)
- 13対1入院基本料(一般病棟看護必要度評価加算、看護補助加算1又は総合入院体制加算を算定する場合)
- 15対1入院基本料(総合入院体制加算を算定する場合)
- 地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を算定する場合も含む。)
- 回復期リハビリテーション病棟入院料1
病棟群単位による届出について
一般病棟7対1入院基本料の病院にとって今回の改定で一番大きな痛手は、看護必要度の評価の仕組みが変更され、要件を満たす患者割合が25パーセント(6か月間の経過措置あり。許可病床数が200床未満の病院では2年間に限り23パーセントでも可。)に引き上げられたことです。すでに、新評価でのシミュレーションを終えた病院も少なくなく、25パーセントは厳しいので10対1や地域包括ケアなどの特定入院料への変更を模索し始めたところも多いようです。
中でも、病棟を複数有している病院においては、2年間の特例で設けられた「病棟群単位による届出」に関心が高まっているようです。この特例は、一般病棟の病床を7対1と10対1の2つに分けて届出ができるという変わったものです。この考え方に似たものとして、現行の療養病棟入院基本料1と2の仕組みがありますので、この仕組みをご存知の方は理解しやすいのではないでしょうか。
一般病棟全体では看護必要度の患者割合が25パーセントを維持できなくても、看護必要度の高い患者さんを特定の病棟に集約することにより、一部の病棟で25パーセントをクリアーすることができる場合には、その病棟で7対1の届出をして残りを10対1にすることが可能となっています。病棟が4病棟以上ある場合にはそれぞれに2病棟以上の設定が必要であり、平成29年4月からは10対1の病床数を一般病棟全体の6割以上にすることが必要となっています。
例として、50床の病棟が4つ存在する病院においては、7対1を2病棟100床、10対1を2病棟100床で届出可能となりますが、平成29年4月からは7対1を2病棟80床、10対1を2病棟120床(200床の6割以上)に変更しなければならなくなります。
また、この特例には今までと違った数々の制約が設けられておりますので、これらの制約を正しく理解していただき、早めに届出が可能かどうかのシミュレーションをする必要があります。
最も重大なルールは、月平均夜勤時間数72時間の計算を全体ではなく病棟群毎に計算して、双方で72時間をクリアーしなければなりません。夜勤従事者を各病棟に3名以上配置しているような場合で、看護師配置を7対1の病棟群を多めにして10対1の病棟群を少なめにシフトしてしまいますと、10対1の看護職員数が少なくなってしまい、72時間をオーバーしてしまう可能性がありますので、看護職員の配置に細心の注意が必要です。
すんなりと、現状の看護師配置で2病棟群に分割して全ての要件をクリアーすれば問題ないように思われますが、看護師数が少なくなればなるほど、看護師1名程度の増減で要件として求められている数字の実績が大きく変わってしまいますので、どの程度の余裕があるのかを事前に確認しておくことも大切です。
なお、2病棟群に分割して要件がクリアーできない場合には、看護師をどのように移動すればよいのか、どのような勤務シフトを組めば要件がクリアーできるかのシミュレーションをしなければなりませんが、様式9において細かなシミュレーションを実行するのは、その都度データの入力をやり直さなければならないため大変な作業になりますので、早めに着手されることをお勧めいたします。
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病棟群毎に計算しなければならない項目として、「月平均夜勤時間数」「看護職員の配置数」「看護師比率」「平均在院日数」「看護必要度」「自宅等退院患者割合(7対1のみ)」「看護補助者の配置数(急性期看護補助体制加算を届出の場合)」「看護職員夜間配置加算の看護職員数」などがあります。
また、患者さんについては病棟群を跨いで移動することは原則禁止となっておりますことから、入院時にどちらの病棟群に収容したほうが良いかの予測をしっかりとすることも大切です。
7対1の維持が不可能で今すぐに転換先の形態が見極められない場合には、2年経過するまでに転換先をじっくりと検討する猶予ができますので、とりあえず病棟群単位の届出をしておくことも選択肢の一つではないでしょうか。
厚生労働省が昨年12月に発表した資料では、平成26年度の適時調査の実施件数は2347件で、確認された返還金額は65億2千万円となっており、個別指導の4466件で41億3千万円と比較いたしますと、返還金額の割合がかなり高いことが窺えます。
このような状況の中、厚生局による適時調査の実施方法が全国的にさらに標準化されるようです。次回以後のお話では、適時調査での留意事項につきまして説明させていただきたいと思います。標準化の詳細はまだ解っておりませんが、もし、内容がわかりましたら、これらに関するお話も追加させていただきたいと思います。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。