COLUMN08|平成28年度の適時調査
平成28年9月30日
適時調査について
今回は、適時調査についてお話させていただきます。
私共の顧問先の病院から「適時調査」の通知が来たので、相談に乗っていただきたいとの依頼があり、実際にお伺いしたところ、今年度になってからの実施方法が昨年度までと比べかなり変わっていることに気が付きました。
適時調査につきましては、今年度から実施方法を全国的に標準化するとの噂は聞いておりましたが、都道府県(以下「県」とさせていただきます。)によっては、今までの実施方法と比べ大きく変わったところもあるようです。
まず、実施通知ですが、実施日の1カ月前に郵送されます。実施通知に記載されていることは次のようなものになっております。
- 実施日時
- 場所(病院内で実施する旨が明示されている)
- 事前提出書類についての説明
- 当日準備する書類についての説明
また、実施通知に添付されている様式としては、各病院に共通するものとして事前提出書類となる「保険医療機関の現況」と称するものが7枚程度添付されております。実施時間としては、3時間から3時間半程度になっており、従前では県によっては午前中から始まり5時間から6時間程度要していた場合と比べますと、大幅な時間縮小となっており、実際のところでは、近くの病院を午前と午後に組み合わせて、1日に2カ所実施することもあるようです。
それでは、上記3にある「事前提出書類」の内容について少し説明を加えさせていただきます。提出期限は調査実施日の10日程度前となっております。
最初に示されているものは「様式9」で、これは直前の1カ月分を事前提出するように指示されております。また、これに付随する書類として、次のようなものが示されております。
- すべての病棟の勤務実績表、いわゆる「勤務表」
- 勤務実績表に記載されている記号類の説明
- 申し送り時間のわかる説明
- 兼務者の兼務状況のわかるもの
- 会議や研修で病棟業務を行っていない時間などがわかるもの
- 特定入院料の治療室の入院患者数がわかるもの
- 様式7
- 病院報告の写し 直近1年分
- 社会保険加入者のデータを基にした名簿
この中で、様式9と⑨の名簿はエクセルデータ化してCD-Rかメールでの提出が求められております。
これだけの資料があれば、だれでも様式9に数字を入力することは可能ですから、事前提出させる目的としては、当日の調査を短時間で要領よく実施するために、厚生局において事前に様式9の数字の記載が正しいかどうかのチェックを詳細に行うためと思われます。病院側の当日の負担を極力軽減するため調査時間が3時間程度となっているようですから、限られた時間内に効率的に実施するためにも、厚生局では事前確認を念入りに行っていると思われます。このことから、事前提出した「様式9」に作成間違いなどがありますと、厚生局の事前確認が無駄になってしまい、調査当日に無用の手間をかけてしまうこともあるでしょうから、そのようなことにならないように「様式9」は普段から正確に作成するようにし、いつでも見せられるようにしておく必要があります。実施通知が来てから慌てて作成し始めるようなことでは手遅れです。
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次の事前提出資料としては、実施通知に添付されていた「保険医療機関の現況」ですが、これには病院の状況として病床数、各職種の職員数、患者数、平均在院日数、特別の療養環境の提供(差額ベッド)にかかる状況、医師や看護師などの名簿などを記載するようになっております。
これ以外の事前提出資料としては、一例としては、医師事務作業補助体制加算に関する様式18の2、重症者等療養環境特別加算に関する様式23の2、患者サポート体制充実加算に関する様式36、疾患別リハビリテーション料に関する様式44の2などがありますが、この部分は病院において届出してある施設基準の該当の有無により若干異なるようです。
なお、ここの示されている様式類は厚生局のホームページからデータをダウンロードすることもできるようです。
これらに加えまして、入院患者に対する案内書、病院の組織図、平面図、院内掲示物の写しも求められております。院内掲示物は診療報酬のいろいろな規定により掲示が義務付けられているものが対象となり、これらの掲示の有無と掲示内容がチェックされるようです。
次に上記4にある「当日準備する書類」の内容について少し説明を加えさせていただきます。
実施通知には「入院基本料の施設基準に関する書類一式」「入院時食事療養の施設基準に関する書類一式」「基本診療料及び特掲診療料の施設基準等の届出要件に記載された関係書類一式」「保険外併用療養費及び保険外負担に関する書類一式」とされており、「なお、当日準備していただく書類のうち、調査で確認する際に特に必要な書類につきましては、調査前日の午前中にメール又はFAXにてお知らせいたしますので、遺漏のないようにご準備ください。」と記載されております。
実は、この部分が一番の曲者です。
一見、上記の記載内容で当日の準備書類について事前に連絡がされて、前日に若干の追加指示がされるように見えますが、実はこの時点では具体的には何も示されておりませんので、まるで雲を掴むような内容となっております。
各県の厚生局の事務所によっては、従前では、実施通知の中に当日の準備書類等のリストが具体的に示されていたところもあり、今回もそのようなつもりでいた病院では当てが外れてしまい、どうしたものかと戸惑っておられるところも多いようです。
逆に、従前ではほとんど何も事前に示されていなかった県もあるようですから、これらの県では、この程度の表現でも「前よりは良くなった」と思われることもあろうかと思います。
実際には、「なお、当日準備していただく書類のうち、調査で確認する際に特に必要な書類につきましては、調査前日の午前中にメール又はFAXにてお知らせいたしますので、遺漏のないようにご準備ください。」の言葉に従い、前日にリストが送られてまいりますが、このリストに具体的な指示が細かく示されている(どう見ても、こちらが通知の本命です。)ことから、施設基準の届出数が多い病院ではリストが7~8枚を超えることもあるようで、実際にこのリストを見て慌てて準備作業に着手したところ、揃え終わったのが夜中の2時を経過してしまい、ほとんど徹夜状態のようなお話も聞かれました。
実際にこのリストを拝見いたしましたところ、準備指示されているものについては、該当する施設基準を届出している場合において、当然のことながら現場に存在する書類や帳簿類ばかりであり、逆に考えればそれらが存在しなければ届出が提出できないものとなります。厚生局の立場としては、「現場にあるべき当たり前のものしか見ません。特別なものは何もありません。ですから念のために前日にお知らせしただけです。」のように考えていると思われますが、このリストを見る限りではこのような考え方はもっともなことですので、前日のリストを見て、慌てて「ある」とか「ない」とかの騒ぎになること自体が可笑しなものとなってしまいます。
このことから、施設基準を届出された病院の自己責任は以前よりも相当重いものとなってきたと思われますので、届出したすべての施設基準についてルールをきちんと理解し、基準を満たしているかの確認作業を頻繁に行うようにしなければ、診療報酬過請求が指摘され多額の返還金を指示されてしまうような大変な事態になってしまうことも、十分にあり得ることを再認識しなければなりません。
なお、今回のお話の参考にいたしました厚生局から発出された「適時調査に関する通知文書」につきましては、他の県においては、記載や指示内容などに若干の相違があることが考えられますので、それをご理解の上お読みいただければと思います。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。