施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN09|返還金が発生した事例紹介

平成28年11月9日

返還金が発生した事例について

今回は、私が適時調査を担当していた時に、実際に返還金が発生した事故事例につきましていくつかご紹介させていただきます。

  • 夜勤時間の計上漏れ
  • これは、日勤と夜勤の時間数の計上方法を錯覚してしまった典型的な事例です。

    通常の日勤者は8時30分出勤で17時30分退勤、昼休み1時間の実勤務8時間のパターンが多いと思います。日勤の実勤務が8時間であったことから、様式9の記載には日勤欄に「8」、夜勤欄に「0」としてしまっておりました。しかし、皆さんお解りのとおり、8時30分から17時30分までは9時間あるわけですから、申し送り時間を考えなければ、夜勤時間帯に1時間分の食い込みが発生いたします。早出や遅出についても、必ず数時間は夜勤時間帯に食い込みが発生いたしますから、その分を夜勤時間数として計上しなくてはなりません。この夜勤帯に食い込んでしまった時間数を夜勤時間の計算対象にしなかったため、計算式の分子が少なくなってしまい、実際に72時間を超過していることに気が付いていなかったような事例です。

    この事例では、かなりの期間において連続して72時間を超過しておりましたので、特別入院基本料との差額(現在のルールでは最初の3カ月間は月平均夜勤時間超過減算となり15%の減算、4カ月目以降は夜勤時間特別入院基本料となり30%の減額となります)と入院基本料の加算も含めてかなりの金額が超過請求になってしまいました。

    夜勤勤務者でなくても、夜勤時間が発生する場合があることを忘れないようにしなければなりません。

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  • 夕食を18時より前に提供
  • 入院時食事療養(Ⅰ)では、適時適温給食を実施しなければならないため、夕食は18時以降に提供(病床数が概ね500床以上の病院、障害者施設等入院基本料や特殊疾患入院施設管理加算や特殊疾患病棟入院料を算定している病棟には特例があります。)しなければなりませんが、夕食を18時より前に提供してしまっていたことが適時調査時に確認され過請求が指摘されてしまいました。

    適時調査は通常は17時頃までには終了するのが一般的であるため、18時頃の配膳状況がなぜ分かったのか不思議に思われる方がおられると思いますが、それももっともなことです。では、なぜ厚生局の担当者がこのことに気が付いたのかお話しさせていただきます。

    事例は2つありますが、1つ目の事例では、病院側の準備不足と不手際により適時調査の進行が滞り、チェック対象の書類の確認が17時の終了予定時刻を経過しても完了しなかったため、翌日以降に残りの分を再調査する方向で調整し始めたところ、病院側より「時間をオーバーしても構わないので、当日中に完了してほしい。」との強い要望が出たことから、時間を延長して調査を継続することになりました。このような状況であったにも関わらず18時よりかなり前の時間に、いつも通りに患者給食の配膳を実施してしまい、たまたま病棟現場の確認に出向いていた調査担当者に現認されてしまい、発覚してしまったという大変お粗末なものでした。現行犯ですから、どうにもなりません。このようなことにならないように、ルールの確認は勿論のこと事前準備には万全を尽くした方がよろしいかと思います。

    もう一つの事例としては、管理栄養士の勤務状況を聞いた担当者が、夕食時の配膳車の出発時間が通常日勤の退勤直前の17時半頃であることの説明を受け、18時よりかなり早い実態(温冷配膳車の能力からして、配膳車を30分速く出しても温度管理はギリギリセーフだったことから、栄養課では日勤者の帰り間際に病棟に配膳車を送り出していたようです。)を不思議に思い、看護業務の調査担当者に病棟の業務スケジュール表を確認させたところ、その表には「患者夕食の配膳時刻17時30分」と記載されており、看護部長さんに確認したところ、17時30分配膳を認めたため、前例と同様に発覚してしまいました。

    こちらの事例は信じられないようなお話ですが、看護部長さん以下、病棟師長さんも夕食が18時以降というルールを知らなかったのが原因でした。もっとも、知っていれば病棟の業務スケジュール表に「患者夕食配膳17時30分」と記載されたものを、厚生局の担当者に堂々と見せることはしないものですから、知らないということは本当に恐ろしいものだと痛感いたしました。

    看護師さんであっても、病院の食事療養のルール程度は勉強しておかなければ危険です。

  • 様式9を作成していない
  • 適時調査にあたっては、看護要員数や月平均夜勤時間数のデータが記載された様式9を事前に提出することになっており、最近の適時調査では様式9は直前のもの1カ月分を事前提出するようになっております。

    この様式9を全く作成していなかった病院が存在したのには正直びっくりいたしました。適時調査の通知を送ってしばらくしたら、病院側から「様式9って何のことでしょうか。」と電話があり、「えっ、様式9を作っていないのですか?」と、思わず耳を疑ってしまいました。一応、作り方をお教えして提出していだきましたが、初めて作られたようですから、計算方法が間違っていることは一目瞭然でありましたので、調査当日に内容を再確認させていただくこととなりました。しかし、事前提出された書類に記載されている看護職員数が1病棟に11名くらいしかなく、2交代制の16時間程度の夜勤を平均的に5~7回実施している状況から推測すれば、月平均夜勤時間数が72時間を超えていることは調査を実施する前から予測できていました。

    調査当日に詳細に再確認した結果、直近数年間では全ての月で72時間を超えており、ひどい月は100時間超えのような実態もありました。当然ですが、さかのぼって特別入院基本料との差額(現在のルールでは最初の3カ月間は月平均夜勤時間超過減算となり15%の減算、4カ月目以降は夜勤時間特別入院基本料となり30%の減額となります)と入院基本料の加算が過請求となってしまったことは言うまでもありません。
    どのくらいの金額になったかはご想像にお任せいたしますが、少なくても千万円単位では収まらなかった事例です。

    様式9を毎月正確に作成いたしませんと、病院経営に大きな影響が出るようなことが起こってしまう可能性があることを、ご認識いただきたいと思います。

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他にもいろいろな事例がございましたが、また機会があるときにお話しさせていただきたいと思います。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。