施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN20|病院の給食について その1

平成29年10月31日

病院の給食(入院時食事療養(Ⅰ))について

病院の給食に関する施設基準では入院時食事療養(Ⅰ)と言われるものがあります。
この入院時食事療養(Ⅰ)を届出していない病院はかなり少なく、私の記憶している範囲でも2か所しかありませんでしたので、ほとんどの病院において届出がされていると考えられますから、病院における施設基準では一番馴染みのあるものになるでしょう。

基本的なルールとしては、次のようなものがあります。

  1. 常勤の管理栄養士か栄養士が食事療養部門(栄養課や給食課など)の指導者か責任者になっている
  2. 適時・適温の食事提供がされている
  3. 特別食加算・食堂加算が請求できる
  • 常勤の管理栄養士、栄養士とは
  • 「常勤」とは、通常ではその病院における就業規則などで定められた「常勤」の勤務時間数を勤務している者になります。よって、時短者や派遣、委託業者の職員では要件を満たしません。

    入院基本料の「栄養管理体制の基準」では、管理栄養士の配置が必須ですが、入院時食事療養(Ⅰ)では栄養士でもよいこととなっておりますので、管理栄養士1人で双方を兼務させても差し支えありませんし、栄養管理体制の基準を管理栄養士、入院時食事療養(Ⅰ)を栄養士のように別々にすることも出来ます。

    多くの病院では管理栄養士や栄養士が栄養課長などになっているケースが多いため、食事療養部門(栄養課や給食課など)の「責任者」の要件は満たされることとなりますが、稀に大病院では栄養部や栄養課の組織の長が医師などになっていることがあります。この場合には、管理栄養士や栄養士が「責任者」の位置付けにはなれませんので、その組織の中で「指導者」との立場にしていただく必要があります。

    なお、基本診療料や特掲診療料の施設基準では、常勤者が産前産後休業、育児休業や介護休業などにより欠勤している間は複数の非常勤者により常勤換算できる取扱いや、常勤者が育児・介護休業法の短時間正職員制度の適用を受けた場合には週30時間以上勤務で差支えないなどの緩和要件がありますが、入院時食事療養(Ⅰ)ではこれらのことは要件化されておりませんので、この特例を利用することはできませんから注意してください。

  • 適温とは
  • 入院時食事療養(Ⅰ)において「適温」とは、保温・保冷配膳車、保温配膳車、保温トレイ、保温食器、食堂のいずれかの方法を用いて、入院患者全員に適温の食事を提供する体制があることを指します。当然ですが、調理後において一度冷えた食事を電子レンジ等で再加熱するものは含まないこととなります。

    また、入院患者全員となっておりますので、1人の例外も認められておりません。

    適温給食の取り扱いで、うっかりやってしまいそうな誤りが下記の例のようにありますので注意してください。

  • 検査などを食事時間帯に実施したことにより食事が冷めてしまい温めなおしたもの。
    食事時間帯に検査を行うことは患者本位ではなく好ましいものとは思えませんが、止む無く食事時間を変更する場合には、変更後の時刻が患者の食事時間と解釈されていますので、その都度個別に調理するなどの対応が必要となります。

    ここで、よく見られる誤りが、「電子レンジで温めているから大丈夫。」などのようなものです。適時調査時にナースステーションや病棟の食堂などに電子レンジが置いてあったため「電子レンジは、検査の遅れ食事の温め直しが出来ますから、患者さんに喜ばれて便利ですよね。」と半分冗談で問いかけしましたら、病棟の看護師さんが「ハイそうです。とても便利で患者さんも喜んでいます。」と回答があって唖然としたこともありました。このような回答はルール違反を認めてしまっておりますので、当然ですが、返還の指導をされる可能性は相当高くなります。

    また、食品の衛生管理の観点からも、調理済みの食事を何時間も保管することは好ましくなく、食中毒の原因ともなりますから絶対に行うべきではありません。もし、院内で食中毒が発生して病院の食事が原因とされた場合には、保健所から「厨房の使用禁止の措置」を受け、患者給食の提供が出来なくなってしまい病院の信用が低下することは避けられません。
  • 検査などを食事時間帯に実施したことにより食事時間帯がズレてしまい、通常の食事を提供することが面倒だったため、既製品のレトルト食品を再加熱して提供してしまったもの。

    上記①と同じような事例です。その都度個別に調理するなどの対応が面倒だったとのことで、スーパー等で販売されているレトルト食品を再加熱して提供していたようです。
    適時調査時に栄養課にあった資料で「検査食」の栄養素の内容が、「潜血食」や「低残渣食」と違うように感じられたため質問したところ「レトルトの牛丼を出しています。」と言われ、「それは食事療養費を請求していますか。それともサービスですか。」とお聞きしたら、管理栄養士さんが「食事療養費をもらっています。以前に出していたパンと牛乳だけの食事よりもおいしいと患者さんから評判です。」と自慢気に話されておりましたが、ルール違反を堂々と自慢されてしまい、閉口いたしました。

    院外調理による再加熱提供は、クックチル、クックフリーズ、真空調理(真空パック)法により料理を行う過程において急速冷却し、提供する際に再度加熱する場合は認められておりますが、常温保管のレトルト食品は該当しないため、注意してください。
  • 適温方法に保温食器を使用しているが、患者が感染症に罹患していることが判明したため、ディスポ食器に切り替えて、保温手段から逸脱してしまったもの。

    本来は、病院側の都合で安易にディスポ食器などの保温能力のないものを使用するのではなく、保温食器の消毒を十分に適切に行うことなどの対応が必要となります。保温配膳車を使用している場合には、ディスポ食器などに切り替えても、使用方法が正しければ適温要件は確保される場合もあります。
  • 「低たんぱく食」などの特殊な特別食を提供するにあたり、該当する食事を調理するのが困難であったため、市販されている「たんぱく調整食や、調理済みの低たんぱくご飯」を電子レンジで加熱して提供したもの。

    特別食加算は、調理に対する手間の評価でもあることから、調理が面倒だからと言って既製品を使うことは本末転倒と言われても仕方ない状況ですし、上記②のように、病院給食の現場に再加熱用の調理済み食品を置くこと自体が間違いのもとですから、注意いたしましょう。
  • 患者の非常食として備蓄していた「レトルトのおかゆ」を、賞味期限直前に「勿体ない」との理由で、温めなおししてそのまま通常の「おかゆ食」として提供してしまったもの。

    上記②でも説明いたしましたが、常温保管のレトルト食品の再加熱はルール違反となりますし、通常の食事に非常食を提供しても美味しくはありませんからやめましょう。

適温における食事の提供体制については、病院側の勝手な判断や思い込みなどにより、知らないうちにルールから逸脱している事例をよく目にいたしますので、もう一度、院内の体制について確認されることをお勧めいたします。

これ以外の留意点などにつきましては、次回以降にお話しさせていただきます。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。