COLUMN28|診療報酬改定における特別の療養環境の提供ルール見直し
平成30年11月30日
特別の療養環境の提供、いわゆる差額ベッドなどの保険外併用療養費の取り扱いを示した「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」という通知がありますが、今年の診療報酬改定に合わせて見直しがされております。
特別の療養環境の提供に関しては、改定前は当該通知の第3の最初の1の部分に「特別の療養環境の提供に係る基準に関する事項」として規定されておりましたが、改定後は当該通知の第3の12の部分に移動しております。
必要な設備について
上記の通知の第3の12のi)の(2)の部分に設備に関する規定がありますが、ここの④の部分が改定され、改定前は「④少なくとも下記の設備を有すること。ア 個人用の私物の収納設備 イ 個人用の照明 ウ 小机等及び椅子」となっておりましたが、改定後は「④特別の療養環境として適切な設備を有すること。」となりましたので、具体的に明示されていた「個人用の私物の収納設備、個人用の照明、小机等及び椅子」は必須の設備ではなくなりました。
では、具体的にどのような設備を設置しなければならないものか気になりますが、ハッキリと何を設置しなければならないのような規定はないので、病院側の判断で常識的な考え方の中で設定された料金に見合うもの設置することになります。
収納設備、照明、小机、椅子の規定は平成6年に、当時の差額ベッドに関する取扱いが特別の療養環境の提供としてのルールに整備されたときに出来たもので、その後24年間も見直しがされておりませんでしたが、これらの設備の有無が現在における特別療養環境室(差額ベッド)の必須要件として明示するような時代でもなくなってきたことが、当該部分が改定された原因ではないかと思われます。ただし、規定が無くなったからと言って設備を何も設置しなくてもよいという訳ではありません。支払ってもらう料金の応じたサービスや設備を病院独自で工夫いただく必要はあります。最近では、無料テレビ、無料冷蔵庫、新聞の無料配布、各種のアメニティーサービスなど様々な付加サービスを提供している特別療養環境室が増えてきているようです。
なお、これ以外の取扱いについては変更がありませんので、①4人室以下、②割合が5割(開設者が国は2割、地方公共団体は3割)以下、③面積6.4㎡以上、④プライバシー設備などについては従前どおりです。また、①と②の規定については、「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」(厚生労働省告示第107号)の第三に規定がされていることから、これらに違反がありますと施設基準が届出できないペナルティー該当しますから注意する必要があります。
料金請求の可否について
今年の改定により、特別療養環境室の料金を請求できない例として、上記に示した通知の12 i) (8)③に「特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合」という文章が追加されました。これをストレートに読んでしまいますと、「入院時において特別療養環境室しか空きがない場合は、全ての事例について特別療養環境室の料金が請求できない。」とも解釈出来ますので、今までと取り扱いが違ったように誤解された方もおられたのではないでしょうか。
このため、平成30年7月20日付「疑義解釈資料の送付について(その6)」の問1に下記のような説明が加えられました。
- 問1
- 答
「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(平成 30 年3月5 日付保医発 0305 第6号)において、特別の療養環境の提供について、「患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合」の「病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合」の例として、「特別療養環境室以外の病室の病床が 満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合」が追加された(第 3の 12 のⅰ)の(8))。
従前は、特別療養環境室以外の病床が満床であるために特別療養環境室に入院させる場合でも、前述の通知に基づく患者の同意があった場合には、患者から特別の料金の徴収が可能であったが、その取扱いが変更になったのか。
- 今回の通知改正で、取扱いは変わっていない。
- 従来、当該通知においては、特別療養環境室の提供について、「患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと。」としており、この点は変更していない。また、今回の通知改正で、「実質的に患者の選択によらない場合」の例示として「特別療養環境室以外の病室の病床が満床の場合」を追加している が、従来、「実質的に患者の選択によらない場合に該当するか否かは、患者又は保険医療機関から事情を聴取した上で、適宜判断すること」としており、この点も変更していない。
- したがって、特別療養環境室以外の病室の病床が満床の場合における特別の料金を徴収の取扱いについては、特別療養環境室の設備構造、料金等について、明確かつ懇切丁寧に説明し、その上で、患者が特別療養環境室への入院に同意していることが確認される場合には、特別療養環境室以外の病室の病床が満床であっても、特別の料金を徴収することは差し支えない。
つまり、今まで通りで変更はありませんが、これらの手続きを適切に行わないで強制的に特別料金を徴収することがないようにしなければならないということが明確にされたことになります。
過去において特別療養環境室しか空きがない時に、入院指示をする医師や入院手続きをサポートする看護師や事務職員などがルールを良く理解せずに、特別料金を支払うことを半ば強制的に入院の条件にするようなことが一部にあったことなどから、このような文章が明文化されたものと思われますので、患者に対して入院の説明をする者は、特別療養環境室のルールをきちんと理解して実践する必要があります。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。