COLUMN32|適時調査における最近の失敗例
令和元年8月9日
- 入退院支援加算1における「専任」の意味の錯覚
- 「入退院支援及び地域連携業務に専従する看護師又は社会福祉士が、当該加算の算定対象となっている各病棟に専任で配置されていること。」
- 看護補助加算などにおける看護補助者の研修
- 別添2
- (6) 急性期看護補助体制加算に係る看護補助業務に従事する看護補助者は、基礎知識を習得できる内容を含む院内研修を年1回以上受講した者であること。なお、院内研修の内容については、別添2の第2の12の(4)の例による。
- 平成28年3月4日 保医発0304第1号 より
入退院支援加算1においては、入退院支援部門に専従の看護師と専任の社会福祉士、又はその逆で専任の看護師と専従の社会福祉士を配置し、さらに各病棟に専任の看護師又は社会福祉士を配置する必要があり、病棟の看護師や社会福祉士は1人で2病棟までを担当することが出来ます。この病棟配置の専任看護師や社会福祉士は病棟を2か所担当することが出来ることと、入退院支援部門の専任者と兼務できますことから、「専任」の表現がされております。
この「専任」の言葉の意味を錯覚してしまい病棟の業務をする看護師を、各病棟に配置する専任の看護師と兼務させてしまったことにより、施設基準の要件を満たせず、適時調査で指摘を受け、返還の指示をされたケースが発生しております。
「専任」の意味ですが、以前はその業務に概ね5割程度従事している者を意味するような解釈がありましたが、現在では担当した業務に対応することが可能であれば、何割の制限はありませんから、2つの以上の部署を兼務しても専任者として担当することが出来ます。
しかし、入退院支援加算1の施設基準における「専任」の意味は一般的な解釈とは違っています。
入退院支援加算1の施設基準の通知で1(3)には次のように規定されています。
一見では「各病棟に専任で配置されている」とありますから、専任者として他の業務を兼務して問題ないように読めますが、最初の部分にあります「入退院支援及び地域連携業務に専従する」の部分を見落としてしまっている方がいるようです。専任配置でありますが、配置された者には「入退院支援及び地域連携業務に専従する」の要件が課せられているため、それ以外の業務はできないこととなります。
これらの業務範囲である入退院支援部門の担当者を兼務したり、2つ目の病棟における専任担当者を兼務することはできますが、通常の病棟業務は「入退院支援及び地域連携業務」に該当しないため兼務することが出来ません。
失敗事例としては、各病棟に勤務している看護師を、その病棟における入退院支援加算1での専任者に充ててしまい、様式9の勤務時間数だけを半分程度減算していたものが、これに該当します。
このような事象は、2018年の診療報酬改定直後に多発していたため、厚生局によっては注意喚起する文書を発出(北海道厚生局が発出した文書)したところもありましたので、その後は減少傾向にありましたが、いまだにこのような錯覚から不適切な配置をしているところがあるようですので、再確認をしてください。
急性期看護補助体制加算の施設基準においては、様式9に勤務時間数を記載する看護補助者は全員が施設基準の通知に記載された6項目の研修を年1回以上受講しなければなりません。
この院内研修を受けさせていなかったことから、様式9に看護補助者の勤務時間数を記載できなくなり、結果として看護補助者数が不足して届出してあった急性期看護補助体制加算などの施設基準の要件を満たせず、適時調査で指摘を受け、返還の指示をされたケースが発生しております。
ここに規定する研修は6つの項目について施設基準の通知に下記のように明示されています。
第2 病院の入院基本料等に関する施設基準
……略……
12 療養病棟入院基本料の注13に規定する夜間看護加算の施設基準
……略……
(4) 夜間看護加算に係る看護補助業務に従事する看護補助者は、以下の基礎知識を習得できる内容を含む院内研修を年1回以上受講した者であること。ただし、院内研修を受講していない場合にあっては、平成31年3月31日までに受講予定であれば、差し支えないものとする。
ア 医療制度の概要及び病院の機能と組織の理解
イ 医療チーム及び看護チームの一員としての看護補助業務の理解
ウ 看護補助業務を遂行するための基礎的な知識・技術
エ 日常生活にかかわる業務
オ 守秘義務、個人情報の保護
カ 看護補助業務における医療安全と感染防止 等
これを見ただけですと、「療養病棟入院基本料の注13に規定する夜間看護加算」のことを意味いたしますから、「急性期看護補助体制加算との関係があるのでしょうか」の疑問が発生します。
そこで、急性期看護補助体制加算の施設基準の通知の下記の部分を見てください。
ここに記載のあるように「別添2の第2の12の(4)の例」という部分がまさしく上記にお示しした部分になります。実は、2018年の改定時にこの部分が変更となっています。それ以前には「療養病棟入院基本料の注13に規定する夜間看護加算」はありませんでしたから、研修のことは急性期看護補助体制加算の通知に下記のように示されていました。
(6) 急性期看護補助体制加算を算定する保険医療機関については、急性期看護における適切な看護補助のあり方に関する院内研修を開催する必要がある。また、当該加算に係る看護補助業務に従事する看護補助者は、以下の基礎知識を習得できる内容を含む院内研修を年1回以上受講した者であること。
ア 医療制度の概要及び病院の機能と組織の理解
イ 医療チーム及び看護チームの一員としての看護補助業務の理解
ウ 看護補助業務を遂行するための基礎的な知識・技術
エ 日常生活にかかわる業務
オ 守秘義務、個人情報の保護
カ 看護補助業務における医療安全と感染防止 等
このため、改定後の急性期看護補助体制加算の通知の部分に、具体的に明示されたものがなくなってしまったことから、必要な研修が6項目あることが認識できなかったために未実施の研修項目が発生したようです。
なお、2019年の改定により看護補助加算や看護補助者配置加算につきましても同様の研修が義務化されました。こちらにつきましては2019年3月31日までの猶予期間がありましたことから、それ以前に適時調査を受けて研修が未実施の場合でも、同日までに受講する計画となっていれば問題ありませんでしたが、既にこの猶予期間も経過していることから、2019年4月以後において6項目の研修が未実施の場合にはこれらの施設基準において、看護補助者数が減算され要件不足となりますと返還の指示を受けることとなりますので、注意してください。
適時調査における厚生局の返還金の指示ついて、全国的に甘い辛いのような温度差があるようですが、「人が居ない、足らない」の事象については、どの厚生局でも確実に返還の指示がされるレベルになりますから、絶対に見落としがないように注意してください。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。