COLUMN36|2020年診療報酬改定後の施設基準の取扱いについて その1
令和2年7月17日
入院時食事療養(Ⅰ)について
入院時食事療養(Ⅰ)の施設基準における基本的な要件が、適時・適温での食事の提供とされております。
今回の改定において、この適時・適温に関するルールが根本的に改訂されました。
- 適時の要件
適時給食につきましては、夕食の配膳時刻が18時以後と定められておりますが、今回の改定により病院側の構造などによっては、例外的に18時より前の配膳があっても差し支えないようにされました。改定後の通知は次のようになっております。
「適時の食事の提供に関しては、実際に病棟で患者に夕食が配膳される時間が、原則として午後6時以降とする。ただし、当該保険医療機関の施設構造上、厨房から病棟への配膳に時間を要する場合には、午後6時を中心として各病棟で若干のばらつきを生じることはやむを得ない。この場合においても、最初に病棟において患者に夕食が配膳される時間は午後5時30分より後である必要がある。」
これは、具体的には次のようなことを意味いたします。
- 「各病棟で若干のばらつきを生じることはやむを得ない」とありますので、複数以上の病棟が存在いたしませんと、この条件を満たすことはできません。
- 「当該保険医療機関の施設構造上、厨房から病棟への配膳に時間を要する場合」とありますので、配膳車が通過する通路やエレベーターなどに構造上の制約がありませんと、この条件を満たすことはできません。
- 「午後6時を中心として」とありますので、配膳時間が午後6時より早いところと遅いところが混在しなければこの条件を満たすことはできません。
- 「最初に病棟において患者に夕食が配膳される時間は午後5時30分より後」とありますことから、午後5時30分より前に配膳を開始することできません。
- 厨房から病棟までの距離が長く、配膳車の移動に時間を要する場合。
- エレベーターが1台しかなく、配膳車をエレベーターに乗せるのに時間がかかる、または、食事の配膳時刻前において、配膳車がエレベーターを占有できないため、病棟に移動させる時刻が著しく遅延することがあるような場合。
- 適温の要件
①と④に条件は特に解説しなくてもご理解いただけるものと思いますので、この2つの説明は省略いたします。それでは、②の要件について少し説明いたします。
「施設構造上」とは次のようなものが想定されます。
次に③の要件について説明します。
「午後6時を中心として」となっておりますから、各病棟での配膳時間の平均値が午後6時頃になることを意味しますので、3病棟あって配膳時刻が17時30分、17時45分、18時のような事例では平均が18時なっておりませんから不可ですが、17時45分、18時、18時15分のような事例では平均が18時になりますから理想的な形態で可となります。
改定以前においても次のように配膳時刻の特例は設けられておりました。
「適時の食事の提供に関しては、実際に病棟で患者に夕食が配膳される時間が、原則として午後6時以降とする。ただし、病床数が概ね500床以上であって、かつ、当該保険医療機関の構造上、厨房から病棟への配膳車の移動にかなりの時間を要するなどの当該保険医療機関の構造上等の特別な理由により、やむを得ず午後6時以降の病棟配膳を厳守すると不都合が生じると認められる場合には、午後6時を中心として各病棟で若干のばらつきを生じることはやむを得ない。この場合においても、最初に病棟において患者に夕食が配膳される時間は午後5時30分より後である必要がある。また、全ての病棟で速やかに午後6時以降に配膳できる体制を整備するよう指導に努められたい。」
ここに、「病床数が概ね500床以上」となっておりましたことから、この規模以上の病院においては、従前より同等の考え方があったのですが、今回の改定では病床数の規定が削除されておりますので、病棟を複数持っている病院であれば小規模の病院であっても病院の構造によっては該当する可能性があります。
適温給食につきましては、保温食器や温冷配膳車などを用いて、温かいままの状態での食事を提供していただき、一度冷めたものを電子レンジなどで温めなおすことは認められておりませんでしたが、例外的に認められるような事例が明示されました。改定後の通知は次のようになっております。
「なお、上記適温の食事を提供する体制を整えず、電子レンジ等で一度冷えた食事を温めた場合は含まないが、検査等により配膳時間に患者に配膳できなかった場合等の対応のため適切に衛生管理がされていた食事を電子レンジ等で温めることは、差し支えない。」
これは、具体的には次のような場合が該当いたします。
- 「検査等により配膳時間に患者に配膳できなかった場合」とありますことから、検査などで食事の配膳時刻に患者が不在である場合に限られます。
- 「適切に衛生管理がされていた食事」とありますので、病棟に常温で長時間放置するようなことは認められません。従前からのルールにも「食事療養に伴う衛生は、医療法及び医療法施行規則の基準並びに食品衛生法(昭和22年法律第233号)に定める基準以上のものであること。」ともされておりますので、病院内の給食には健康保険法のルールのほかに、医療法や食品衛生法など制約も受けます。
- 帳簿管理について
①については、条件は特に解説しなくてもご理解いただけるものと思いますので、説明は省略いたします。それでは、②の要件について少し説明いたします。
病院の給食では大量調理施設衛生管理マニュアルなども順守いただくものと考えられます。このマニュアルには「調理後ただちに提供できない場合には、10℃以下または65℃以上で管理する」また、「調理終了後から2時間以内に喫食されるのが望ましい」のようにされております。保健所による立ち入り検査のチェック項目の中でも「調理終了後から2時間以内に喫食がされているか」のようなものが盛り込まれているところもあります。
このことから、温冷配膳車から出してしまった食事を病棟のナースステーションなどで常温において長時間保管するのは、食中毒の原因となる細菌の増殖を招く可能性が高くなりますので、絶対に避けるべきです。
また、「調理終了後から2時間以内」の考え方は、食事全体が出来上がった時刻からの起算ではなく、メニューの1品ごとに出来上がった時刻から起算されるものです。厨房で食事を作るときには、患者さんが喫食される通常の食事時刻から逆算して調理工程を組んでいることがほとんどです。ですから、昼の12時の食事であれば10時30分頃には最初のメニューが出来上がり、通電状態の温冷配膳車に収納されることは多いものと考えられます。この10時30分からの2時間後となれば12時30分頃がリミットになりますので、12時から起算して14時までは大丈夫のような考え方は大変危険です。
もし、これらのことに注意を払わずに、食中毒が発生したとなりますと、保健所が調査に入ることとなり、直中毒の原因となる食事を作った施設に対しては、食品衛生法第55条の規定に基づく給食施設使用禁止命令が出される可能性もあり、数日間は病院の給食が作れなくなるような結果を招く可能性もあります。
もし、このような結果になりますと病院の評判なども含めて内外に与える影響も小さくありませんので、安易に行うことの無いように、食事の衛生管理は徹底しなければならないことは言うまでもありません。
入院時食事療養(Ⅰ)の基準においては、いろいろな帳簿の記載や整備が求められておりますが、改定後の通知は次のようになっております。
「栄養管理体制を整備している施設又は栄養管理実施加算を算定している施設(有床診療所に限る。)においては、下記の場合において、各帳簿を必ず備えなくても差し支えない。
- 患者の入退院等の管理をしており、必要に応じて入退院患者数等の確認ができる場合は、提供食数(日報、月報等)、患者入退院簿
- 栄養管理体制の基準を満たし、患者ごとに栄養管理を実施している場合は、喫食調査
- 特別治療食等により個別に栄養管理を実施している場合は、患者年齢構成表、給与栄養目標量
- 食材料等の購入管理を実施し、求めに応じてその内容確認ができる場合は、食料品消費日計表、食品納入、消費、在庫等に関する帳簿
また、(2)の通り、保険医療機関の最終的責任の下で第三者に委託した場合は、保険医療機関が確認する帳簿を定め、①から④までにより必ず備えなくても差し支えないとした帳簿であっても整備すること。」とされております。
この「栄養管理体制を整備している施設」ですが、入院基本料の栄養管理体制の基準における栄養管理手順に基づき管理栄養士等が患者ごとに栄養管理を実施していることを意味いたします。管理栄養士が配置され、適切に栄養管理計画書が作成されていればこれに該当いたしますので、通常の病院であればほとんどのところが当てはまることとなります。また、省略できる書類等は集団給食施設で一般的に必要とされているものであり、改定後は、個別に栄養管理を実施しているのであれば、集団給食施設としての帳簿類は省略されても差し支えないとの考え方になっております。
①については、電子カルテシステムなどにより患者の入退院のデータが把握できるのであれば、提供食数(日報、月報等)、患者入退院簿は不要となります。
②については、患者ごとに栄養管理を実施している場合においては、管理栄養士などが患者個々に対して食事摂取や嗜好などの状況を確認していることが多いですから、喫食調査の帳簿類は不要となります。
③については、患者個々について個別に栄養量などの管理(特別食のように、個々の食事せんにおいて栄養量などが明示されているようなケース)がされるのであれば、集団給食施設としての栄養量等を把握する必要がありませんので、患者年齢構成表、給与栄養目標量はなくても差し支えないこととなります。
④については、デジタル機器やデータにより食材料等の購入管理を実施しているところが増えてきておりますが、このような場合においては紙媒体としての食料品消費日計表、食品納入、消費、在庫等に関する帳簿は不要となります。
ただし、給食業務の一部を業者に委託している場合には、委託契約の中で業者側が作成して病院側が確認することが明示されている帳簿類があります。このような場合においては、それらの帳簿類までを省略することは認められておりませんので、注意が必要です。
今回の食事療養の取り扱いに関する改定は、今までの中でもかなり大きく踏み込んだ内容になっており、病院側の負担軽減にも大きく寄与するものと思われますが、病院の食事に対する本質を見失ってしまい、治療食としての役割から外れることがないように、注意してください。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。