施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN42|施設基準における職員研修などのルール

令和4年7月15日

施設基準においては、職員に対する研修や担当者におけるカンファレンスの実施が義務化されているものがあります。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、臨時的な取り扱いなどによりその実施方法などに例外規定が設けられたものについては、そこに示された内容による方法が認められたり、保健所経由で厚生労働省から示された通知などにより一時的に実施することを延期するなどの措置が執られたものもありました。しかし、これらの取り扱いが示される以前より、集合や対面形式によらずDVDの配布に留めるなどの安易な方法により実施してきた病院も少なくなく、これらに関しての明確な基準も示されていなかったことから、適時調査においての各厚生局の指導方針も全国的に温度差のあるものとなっていたようです。

この度、2022年の診療報酬改定に伴い発出された疑義解釈の通知などにより、研修やカンファレンスの実施方法の基準が明確に示されたことから、この通知の発出日以後は、これに示された内容から逸脱する方法で実施された場合には、適時調査で指摘を受けるだけでなく、程度によってはその施設基準の届出が無効とされ、診療報酬の返還を求められる可能性もありますので、注意が必要です。

  • 過去に発出された通知
    1. 令和2年5月12日付け厚生労働省医政局発出「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う医療法等において定期的に実施することが求められる業務等の取扱いについて」(以下「通知A」とします。)
    2. 令和2年3月19日付け厚生労働省保険局医療課発出「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その6)」問6(以下「通知B」とします。)
      問)区分番号「A234」医療安全対策加算の注2医療安全対策地域連携加算及び区分番号「A234-2」感染防止対策加算の注2感染防止対策地域連携加算の施設基準に規定する年1回程度の評価について、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため実施できない場合においても、届出を辞退する必要があるか。
      答)届出を辞退する必要はない。ただし、実施できるようになった場合には、速やかに評価を実施すること。

    この2つの通知で注意していただきたいのが次の項目です。

    通知Aでは「延期又は休止等の措置をして差し支えない。ただし当該支障がなくなり次第、速やかに当該措置を見直すこと。」 、通知Bでは「ただし、実施できるようになった場合には、速やかに評価を実施すること。」とあります。どちらも「実施出来る環境になった場合には実施すること」の意味になっております。この部分を見落としたのか、拡大解釈したのかは不明ですが、令和2年以降これまでの間において、ここに示されたものに限らず「新型コロナ」を理由として、院内研修や相互評価などを全く開催していない病院があるように見受けられます。

    例えばですが、令和3年10月から12月の間は、全国的に新型コロナウイルスの感染者がかなり押さえられた時期もありましたが、このような期間においても、実施の検討もしなかった病院が存在しているようですが、この期間で実施しなければこれらの通知の趣旨をどのように解釈するのか、甚だ疑問となります。現在では、下記の通知などが示されておりますことから、これに従って適切な開催を行う必要があります。

  • 令和4年3月4日付け厚生労働省保険局医療課長発出「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」
    1. 別添2 入院基本料等の施設基準等 第13医療安全管理体制の基準
      (4) 安全管理のための委員会が開催されていること。
      安全管理の責任者等で構成される委員会が月1回程度開催されていること。なお、安全管理の責任者が必ずしも対面でなくてよいと判断した場合においては、当該委員会を対面によらない方法で開催しても差し支えない。
    2. 別添3 入院基本料等加算の施設基準等 第20 1医療安全対策加算1に関する施設基準
      (3)ウ医療安全対策に係る取組の評価等を行うカンファレンスが週1回程度開催されており、医療安全管理対策委員会の構成員及び必要に応じて各部門の医療安全管理の担当者等が参加していること。なお、当該カンファレンスを対面によらない方法で開催しても差し支えない。
    3. 別添3 入院基本料等加算の施設基準等 第21 1感染対策向上加算1の施設基準
      (7)(2)の チームにより、保健所及び地域の医師会と連携し、感染対策向上加算2又は3に係る届出を行った保険医療機関と合同で、少なくとも年4回程度、定期的に院内感染対策に関するカンファレンスを行い、その内容を記録していること。また、このうち少なくとも1回は、新興感染症の発生等を想定した訓練を実施すること。
      (8)(7)に規定するカンファレンス等は、ビデオ通話が可能な機器を用いて実施しても差し支えない。

    この3つの通知は、施設基準の通知の本文に示されているもので、 感染対策を意識したものと思われますが、いずれの場合も集合形式や対面 以外の方法でも差し支えないとされております。なお、感染対策向上加算に関しては、令和4年3月31日 付け厚生労働省保険局医療課発出「疑義解釈資料の送付について(その1)」の問14に次のように示されておりますので、書面だけを回覧させるような「持ち回り形式」での開催は認められておりません。また、感染対策向上加算以外の施設基準についても「書面だけを回覧させるような」ものは「参加した」と理解することは困難ですので、持ち回り形式の方法は選択すべきではないものと考えます。

    問)外来感染対策向上加算及び区分番号「A234-2」感染対策向上加算におけるカンファレンスについて、書面により持ち回りで開催又は参加することは可能か。
    答)不可。

  • 令和4年4月以後において、全ての施設基準に適用される研修等の実施方法に関する通知について
    1. ☆令和4年3月31日付け厚生労働省保険局医療課発出「疑義解釈資料の送付について(その1)」問257
    2. 【横断的事項】
      問)オンライン会議システムやe-learning 形式等を活用し、研修を実施することは可能か。
      答)可能。なお、オンライン会議システム、動画配信やe-learning 形式を活用して研修を実施する場合は、それぞれ以下の点に留意すること。

      <オンライン会議システムを活用した実施に係る留意点>

      • 出席状況の確認
      • (例)
        ・受講生は原則として、カメラをオンにし、講義中、事務局がランダムな時間でスクリーンショットを実施し、出席状況を確認すること。
        ・講義中、講師等がランダムにキーワードを表示し、受講生に研修終了後等にキーワードを事務局に提出させること。

      • 双方向コミュニケーション・演習方法
      • (例)
        ・受講生からの質問等については、チャットシステムや音声発信を活用すること。
        ・ブレイクアウトルーム機能を活用してグループごとに演習を実施後、全体の場に戻って受講生に検討内容を発表させること。

      • 理解度の確認
      • (例)
        ・ 確認テストを実施し、課題を提出させること。

      <動画配信又はe-learning形式による実施に係る留意点>

      • 研修時間の確保・進捗の管理
      • (例)
        ・主催者側が、受講生の学習時間、進捗状況、テスト結果を把握すること。
        ・早送り再生を不可とし、全講義の動画を視聴しなければレポート提出ができないようにシステムを構築すること。

      • 双方向コミュニケーション
      • (例)
        ・質問を受け付け、適宜講師に回答を求めるとともに、質問・回答について講習会の Webページに掲載すること。
        ・演習を要件とする研修については、オンライン会議システムと組み合わせて実施すること。

      • 理解度の把握
      • (例)
        ・読み飛ばし防止と理解度の確認のため、講座ごとに知識習得確認テストを設定すること。

    この通知でもわかるように、院内研修については原則論として対面形式で行っていただくべきものとされており、感染対策を講じる必要がある場合にはオンラインなどを活用することが認められておりますが、実態としては対面形式と同程度の効果が求められております。

    そして、その実施方法については、研修内容を最初から終わりまできちんと受講していただくことが前提となっておりますので、それを担保するためにいろいろな手法による条件が付されております。よって、この条件を満たしておりませんと、この通知の内容すら満たすことが出来なくなってしま いますから、「研修の実施方法が不適切である」との指摘を受けることとなります。

    更に、これらの方策すら講じる考え方がなかったと判断されますと、不注意に留まらず、場合によっては「悪意」があったと判断される可能性もあり、そのように判断されますと「研修を実施した」との認識になりませんから、結果として「施設基準の要件を満たしていない」と認定され届出を無効とされる可能性もあります。そのような結果になってしまいますと、少なくても これらの通知が発出された後の、本年4月以後においては該当する施設基準の診療報酬の返還を指導されることも十分に考えられます。

    これまでの間に、 安易にDVDの回覧や配付するだけ方法や、動画を院内のシステム上に公開しているだけのような場合 が多いように見受けられますので、上記で示された適切な管理方法が講じられていないものは明らかにルール違反となりますことから、もう一度、原点に戻って研修などの実施方法の確認と見直しをお願いいたします。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。