施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN44|再開された個別指導について

令和5年2月10日

1.2022年度の個別指導

新型コロナウイルス感染拡大の影響により2020年度以後の実施対象などが変更されております。
2022年度の選定対象の基本的な考え方としては、診療報酬明細書(レセプトの平均点数が高いもの、いわゆる「高点数」に該当するものは選定されないこととされております。(別添資料1|2-(3)参照)

そうなりますと高点数以外の事例が対象となるわけですが、どのようなものが対象になるかは主として次の通りです。

  1. 2021年度以前に個別指導が実施され、再指導になっている場合。
  2. 2021年度以前に監査が実施され、戒告や注意の処分が出されている場合。
  3. 診療報酬の請求が正しく行われていないことが疑われる場合。

上記①と②はどのようなものかは理解しやすいものと思われますが、③につきましては具体的にどのようなものか、もう少し説明を加えます。 「請求が正しく行われていないことが疑われる」となれば、それを意味する情報が厚生局にもたらされたことを意味いたします。簡単に申上げれば情報提供があったもの、いわゆる「タレコミ案件」です。

どのようなものが該当するかは、おおむね次のようなものに分類されます。

  1. 患者から診療内容や請求内容が正しくないような話がされたもの。
  2. 患者から医療費通知の内容と、診療回数や金額などが相違することが示された場合。
  3. 審査支払機関から、診療報酬明細書の内容に疑義があることが示された場合。
  4. 職員や元職員などから、不正請求を行っているようなことが示された場合。(いわゆる内部告発になります。)

イについては、領収書など具体的な証拠が明示された場合などには、その事例だけを持って選定対象とされることがありますが、それらが示されなかったような、単なる手紙や電話だけでは、信憑性が低いことにもなりますので、すぐに選定対象にされないこともあります。しかし、複数の患者から同様な 話が提供された場合には、信憑性が高くなることとなりますので、選定の対象とされます。

ロについては、領収書に記載されている内容と、医療費通知に記載されている内容が相異(医療費通知は診療報酬明細書から作製しますので、結果として領収書と診療報酬明細書が一致していないこととなります。)することとなりますので、不正請求の可能性も出て参りますことから、確実に選定の対象とされます。

ハについては、診療報酬明細書の内容に著しく不合理なことがありますと、支払基金や国保連合会などから管轄する厚生局にその内容が伝えられますで、厚生局で協議して必要性が認められれば選定の対象にされます。

ニについては、不正請求を疑うに十分な証拠が提供されるケースがほとんどですから、確実に選定の対象とされます。

2.高点数の取り扱い

診療報酬明細書の平均点数が高いもの、いわゆる高点数に該当するものの選定については、ルール上において手順が決まっております。

まず、保険医療機関に指定された後、新規個別指導も終了いたしますと、既に指定済みの保険医療機関として、通常に選定される部類に組入れられます。その後、年間の診療報酬明細書全体の平均点数を計算し、厚生労働省が示している都道府県ごとの平均点数より高くなっておりますと、翌年度に集団的個別指導の選定対象とされます。なお、実際に選定される数は、都道府県内の病院数に対して平均点数の上から8%とされます。つまり、病院数が100件でしたら平均点数が上位から8件分が対象されることになります。

次に、集団的個別指導の対象とされた翌年に平均点数を同じように計算し、都道府県ごとの平均点数より高くなっておりますと、次の年度に個別指導の選定対象とされます。なお、実際に選定される数は、都道府県内の病院数に対して平均点数の上から4%とされますので、上記の事例では4件分が個別指導の対象にされます。

但し、この4件は高点数以外で選定されたものも含まれますので、再指導や情報提供などによるものが3件あったといたしますと、高点数での選定は「4-3で1件」だけとなります。都道府県ごとの平均点数は各厚生局のホームページに毎年掲載されますので、参考にしてください。実際には、そこに掲載されている点数に病院の場合は1.1倍した数値以上のものが高点数での要件を満たすことになります。例としては、公表されている平均点数が3 0000点とした場合には、病院側の平均点数が33000点以上になりますと、選定の要件を満たすこととなります。

3.高点数の個別指導は2023年度も中断する

別添資料2を見ていただきたいと思います。この通知の2-(3)に「ただし、令和4年度も引き続き高点数であった保険医療機関等に対し令和5年度における高点数を理由とする個別指導は実施しない。」とされています。

これは、令和4年の診療報酬明細書の平均点数が高い状態であっても、令和5年度においては高点数による個別指導の選定は行わないことを意味いたします。つまり、令和5年度も、1で説明したように今年と同じような形での選定が行われることとなります。

4.個別指導に選定された場合の危険度

2022年度と2023年度に個別指導に選定される理由は1で説明したとおりですが、①と②に該当する数はそれほど多いものでもありませんので、③で選定されるケースがほとんどと思われます。

①と②については、過去にご自分の病院が受けた措置を振り返っていただければ該当しているかどうかはすぐに解ります。ですから、①と②に該当していない場合には③に該当したことにより選定されたことは一目瞭然です。その中でも「二」に該当したものが選定される可能性が極めて大 きくなりますから、厚生局側で診療報酬請求が不正確であることの証拠を持っていると思っていただいた上で、慎重な対応をする必要があります。

事前に送付される患者リストを見ていただき、診療録等を用意していただくことになりますが事前に請求誤りなどに気が付いた場合には、誤ってしまった理由を良く確認し、再発防止と、正しい診療報酬の請求に戻すような措置を講じていただくことが無難と考えます。間違っても、診療録や書類等を書き換えたり、隠蔽したり、捏造したりいたしますと、厚生局が保有している証拠との不整合がすぐにチェック(ピンポイントで狙い撃ちに来ますから、誤魔化しようがありません。)されます。

その結果は明らかな不正請求となり、証拠改竄などにより悪質性も増大してしまいます。そして個別指導は中断され監査に移行し、保険医療機関の指定の取消しや保険医の登録の取消しの処分を受けることも十分に考えられることを忘れないでいただきたいと思います。

取消しの処分を受けますと、原則として5年間は保険医療機関の再指定や、保険医の再登録は出来なくなります。また、返還金の行政指導については個別指導では過去1年間に止まりますが、監査になりますと過去5年間となり、保険者への返還金は4割増しで返還することにもなりますので、影響は甚大です。

このような措置を受けることのないように、診療報酬の請求を普段から正確に行うことは当然のことと認識していただきたいと思います。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。