施設基準プロフェッショナルコラム

COLUMN46|身体的拘束最小化の基準について(その1)

令和6年10月30日

2024年6月の診療報酬改定により、入院基本料の基本的な5つの基準に、
新たに「意思決定支援の基準」と「身体的拘束最小化の基準」が加わり、基本的な基準は7つとなりました。

1.身体的拘束最小化の基準のルール

  • 患者又は他の患者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束を行ってはならない。
  • 身体的拘束を行う場合には、その態様及び時間、その際の患者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
  • 身体的拘束とは、抑制帯等、患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう。
  • 身体的拘束最小化対策に係る専任の医師及び専任の看護職員から構成される身体的拘束最小化チームが設置されている。必要に応じて、薬剤師等、入院医療に携わる多職種が参加していることが望ましい。
  • 身体的拘束最小化チームでは、以下の業務を実施する。
    ア)身体的拘束の実施状況を把握し、管理者を含む職員に定期的に周知徹底する。
    イ)身体的拘束を最小化するための指針を作成し、職員に周知し活用する。
      なお、ア)を踏まえ、定期的に当該指針の見直しを行うこと。
      また、当該指針には、鎮静を目的とした薬物の適正使用や
      ③に規定する身体的拘束以外の患者の行動を制限する行為の最小化に係る内容を盛り込むことが望ましい。
    ウ)入院患者に係わる職員を対象として、身体的拘束の最小化に関する研修を定期的に行う。
  • 精神科病院(精神科病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。)における身体的拘束の取扱いについては、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律25第123号)の規定による。

2.実施時期

2024年3月31日現在において、入院基本料の届出があった場合には、2025年5月31日までに、上記1の状態を整えて、適切に実施する体制を構築すれば良いこととされています。

3.身体的拘束を最小化するための指針

この指針については内容に特に決まりはありませんので、病院側において、他の施設基準との関係や、現場の実態などを考慮して、独自に作成すれば良いこととされています。なお、どのように作成すべきかについて分かりづらいような場合には、他院で作成されたものが公表されておりますので、これらを参考にしてみることも出来ます。インターネット検索で「身体的拘束を最小化するための指針 病院」などのキーワードで検索してみますと、かなりの病院が公開していることが分かります。

4.身体的拘束最小化チーム

専任の医師及び専任の看護職員(看護師、准看護師)で構成されるものが基本ですが、病院の規模や患者の特性などにより必要に応じて、薬剤師等、入院医療に携わる多職種が参加していることが望ましいとされます。
この専任の看護職員ですが、特に経験年数や研修の受講などは要件とされていませんので、知識や経験などから相応しい者を充てていただくことで差支えございません。
なお、認知症ケア加算1においては、「認知症ケアチームは、身体的拘束最小化チームを兼ねることは差し支えない。」とされていることと、2024年3月28日の疑義解釈通知の問71では、「認知症ケアチームの専任の常勤看護師が身体的拘束最小化チームチームに係る業務を兼務した時間は、認知症ケアチームの業務として施設基準で求める「原則週16時間以上、認知症ケアチームの業務に従事すること」に含めてよい。」ともされていることから、認知症ケアチームを身体的拘束最小化チームと兼務させる病院もあるようです。

5.身体的拘束とは

基準の中でも「身体的拘束とは、抑制帯等、患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう。」と示されていることから、これらに該当するものは全て身体的拘束になります。また、2016年3月31日の疑義解釈では、認知症ケア加算の説明として、問62において「身体的拘束は、抑制帯等、患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限であり、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る等はすべて該当する。」ともされております。

6.職員への周知について

身体的拘束の実施状況を把握し、管理者を含む職員に定期的に周知徹底することと、指針の内容も職員に周知することとされております。周知の方法はいろいろと考えられますが、標準的な方法としては、職員が立ち寄ったりする場所や通路などにおいての掲示(張り紙)が考えられます。最近では、職員が閲覧出来る院内のインターネット環境の中にある共用の掲示板などに掲示するところも増えておりますが、ここで注意していただきたいのは、①インターネット環境内の共用の掲示板に、それがあることを別に伝達するなどして、それを見ることをお知らせすること、②全ての職員が何時でもそこにアクセス出来ることが必須要件になりますことから、一部の職員、例えば、非正規職員や一部の職種などがアクセス出来ないような仕組みは、認めてもらえません。(存在を知らないとか、職員の誰でもがアクセス出来ないのような事例は、既に、適時調査において指摘を受けているようです。)


7.職員研修について

入院患者に係わる職員を対象として、身体的拘束の最小化に関する研修を定期的に行う必要があります。これは、全ての職員では無く、入院患者に係わる職員ですから、外来患者だけを対応する看護師やスタッフは除外しても差し支えありません。
研修の実施方法ですが、基本的には対面での集合形式のようなものを想定しておりますが、別に認められた方法を講じれば、感染対策のためなどでオンラインなどの方法も認められています。具体的には2022年3月31日の疑義解釈通知の横断的事項として、問257に下記のように示されていますので、この方法を守って実施してください。この方法が守られていませんと「研修の実施が無い」と判断され、診療報酬の返還を求められても文句は言えなくなります。なお、この通知が発出されてから既に2年以上も経過しているにも関わらず、存在すら知らない病院が未だに数多く存在します。疑義解釈通知は、少なくても入院基本料が今の考え方になった2006年以後のものは、全てに目を通して頂く必要がございますが、新型コロナの特例のものなども含めますと、2024年9月段階で約6200件ほど存在します。これら全てを書面などで把握することはほぼ不可能でもありますので、ワード検索機能などが装備された「疑義解釈通知の検索システム」が搭載された市販の「施設基準の管理システム」なども活用する必要があるかもしれません。

2022年3月31日 【横断的事項】

(問257)オンライン会議システムやe-learning形式等を活用し、研修を実施することは可能か。
(答) 可能。なお、オンライン会議システム、動画配信やe-learning形式を活用して研修を実施する場合は、それぞれ以下の点に留意すること。

  • オンライン会議システムを活用した実施に係る留意点
    ○ 出席状況の確認
    (例)
    ・ 受講生は原則として、カメラをオンにし、講義中、事務局がランダムな時間でスクリーンショットを実施し、出席状況を確認すること。
    ・ 講義中、講師等がランダムにキーワードを表示し、受講生に研修終了後等にキーワードを事務局に提出させること。
    ○ 双方向コミュニケーション・演習方法
    (例)
    ・ 受講生からの質問等については、チャットシステムや音声発信を活用すること。
    ・ ブレイクアウトルーム機能を活用してグループごとに演習を実施後、全体の場に戻って受講生に検討内容を発表させること。
    ○ 理解度の確認
    (例)
    ・ 確認テストを実施し、課題を提出させること。
  • 動画配信又はe-learning形式による実施に係る留意
    ○ 研修時間の確保・進捗の管理
    (例)
    ・ 主催者側が、受講生の学習時間、進捗状況、テスト結果を把握すること。
    ・ 早送り再生を不可とし、全講義の動画を視聴しなければレポート提出ができないようにシステムを構築すること。
    ○ 双方向コミュニケーション
    (例)
    ・ 質問を受け付け、適宜講師に回答を求めるとともに、質問・回答について講習会のWebページに掲載すること。
    ・ 演習を要件とする研修については、オンライン会議システムと組み合わせて実施すること。
    ○ 理解度の把握
    (例)
    ・ 読み飛ばし防止と理解度の確認のため、講座ごとに知識習得確認テストを設定すること。


8.様式9との関係について

この基準を守るためには、職員研修に出席したり、身体的拘束最小化チームが活動する必要があります。この時間については、次のような疑義解釈が示されています。

2024年3月28日 医科 【入院料通則(身体的拘束の最小化)】

(問25) 入院基本料を算定する病棟において1日に看護を行う看護要員の勤務時間数は、当該病棟で勤務する実働時間数のことをいうものであり、休憩時間以外の病棟で勤務しない時間は除かれるものであるが、院内感染防止対策委員会、安全管理のための委員会及び安全管理の体制確保のための職員研修を行う時間、褥瘡対策に関する委員会及び身体的拘束最小化チームに係る業務時間も除かれるのか。

(答)入院基本料の施設基準の「院内感染防止対策の基準」、「医療安全管理体制の基準」、「褥瘡対策の基準」及び「身体的拘束最小化の基準」を満たすために必要な院内感染防止対策委員会、安全管理のための委員会及び安全管理の体制確保のための職員研修、褥瘡対策委員会並びに身体的拘束最小化チームに係る業務及び身体的拘束の最小化に関する職員研修へ参加する時間に限り、当該病棟で勤務する実働時間数に含んでも差し支えない。なお、参加した場合、病棟で勤務する実働時間としてみなされる委員会等及び研修は、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和6年3月5日保医発第0305第5号)」の別添2の第1の2、3、4及び7の規定に基づき実施されるものであること。
なお、これに伴い、「疑義解釈資料の送付について(その7)」(平成19年4月20日事務連絡)別添1の問33及び「疑義解釈資料の送付について(その1)」(平成24年3月30日事務連絡)別添1の問22は廃止する。

このことから、身体的拘束最小化チームに係る業務時間と、身体的拘束の最小化に関する職員研修へ参加する時間は、当該病棟で勤務する実働時間数に含んでも差し支えない(様式9から除算する必要はない)こととなります。
お話しが横にそれてしまいますが、褥瘡対策チームの専任看護職員が褥瘡対策の基準を守るために、入院している院内の患者(勤務している病棟以外の患者)への褥瘡対策を実施した場合は、様式9の評価がどのようになるかをご存じでしょうか。
当然ですが、他の病棟に出向いている訳ですから、勤務場所の様式9からは除算しなくてはならないように思われがちですが、正解は、除算する必要はありません。
これについては、正確にご存じの方はかなり数少ないように感じております。それに関するルールが、現在においては疑義解釈も含めて、どこにも明示されていないことが原因と考えます。根拠が書いていないのに、なぜそうなるのかは、多くの人の疑問と思いますことから、根拠を下記にお示しいたしますので参考にしてください。
平成20年3月5日の「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の中の、別添2 第2 4 (2)には、「エ」として次のように記載されていました。

平成20年3月5日)
「ただし、病棟勤務と外来勤務、手術室勤務、中央材料室勤務、集中治療室勤務又は褥瘡対策に係る専任の看護職員(当該保険医療機関の届出入院料が一の場合を除く。)を兼務する場合は、勤務計画表による病棟勤務の時間を比例計算の上、看護要員の数に算入することができる。なお、兼務者の時間割比例計算による算入は、兼務者の病棟勤務延時間数を所定労働時間(労働基準法等の規定に基づき各保険医療機関の就業規則等において定められた休憩時間を除く労働時間のことをいう。以下同じ。)で除して得た数をもって看護要員の人員とすること。」


これが、平成22年3月5日の「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の中の、別添2 第2 4 (2)には、「エ」出は、次のように記載が変更されてました。

平成22年3月5日)
「ただし、病棟勤務と外来勤務、手術室勤務、中央材料室勤務又は集中治療室勤務を兼務する場合は、勤務計画表による病棟勤務の時間を比例計算の上、看護要員の数に算入することができる。なお、兼務者の時間割比例計算による算入は、兼務者の病棟勤務延時間数を所定労働時間(労働基準法等の規定に基づき各保険医療機関の就業規則等において定められた休憩時間を除く労働時間のことをいう。以下同じ。)で除して得た数をもって看護要員の人員とすること。」


平成20年の通知では存在していた赤字の部分が削除されています。この改訂前までは、褥瘡対策に係る専任の看護職員は、他の病棟の患者に対する褥瘡対策を実施すると、様式9から除算する必要があることが明示されていたのですが、この改定以後(現在も)は、その文言が削除されたことによって、他の病棟の患者に対する褥瘡対策を実施しても、様式9から除算する必要がなくなったわけです。ここの通知の変化を熟知していませんと、除算するかしないかの正確な答えが導き出せません。この当時の、この通知のことを理解していないと、この部分は正確な取扱いが出来ません。(おそらく、行政側の職員でも、根拠も含めて正確に答えられる方は、稀だと思います。)

施設基準は、このような歴史の積み重ねで運用されているものが数多くありますので、そのことを鑑みて、いろいろな資料を昔に遡って見て頂くなりして、正確な情報を得ることがとても重要です。

竹田和行(株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役)

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。