COLUMN47|身体的拘束最小化の基準について(その2)
令和6年12月6日
前回に引き続き、身体的拘束最小化の基準について記載いたします。
1.療養病棟入院基本料と障害者施設等入院基本料の看護補助体制充実加算、急性期看護補助体制加算、看護補助加算などとの関係

これらの施設基準の届出をしている病院は数多いものと考えられますが、これらの点数を算定するには、参考1のようなルールが明示されています。このルールは点数を算定する際の通知に明示されており、施設基準のルールには明示されておりませんので、適時調査ではチェックの対象とされておりません。
それでは、どのようなときに厚生局からチェックされるかについて説明します。
点数の算定に関しては、適時調査ではなく個別指導や特定共同指導などにおいてチェックされることとなります。(参考2参照)
ですので、これらの指導を受けたことの無い病院においては、このルールの存在を知らないところが相当数あるようです。しかし、知らなかったということであっても、明示されたルールが守られていない場合には「算定要件を満たさない」と判断され、上記の診療報酬の返還が指示されることとなりますので、このルールもよく理解していただく必要があります。これらのことを実施するにあたっては看護現場において、手順書などが存在しないと病院全体で統一的な実施は困難と考えられます。過去において、個別指導や特定共同指導で点数の算定のルールに示された必要なこと(参考1参照)が実施されていないことを指摘された事例がありましたが、原因としては、関係部署(特に看護部)で、このルールを知らなかったことと、手順書が作られていなかったことなどが原因と考えられます。もし、手順書などが作成されていないようでしたら、早急に作成し、現場に周知徹底することが必要です。
なお、身体的拘束最小化の指針(以下「指針」とします。)を作る際には、これらの点数を算定する際に必要なルール(参考1参照)を取入れた形で作る必要があります。
2.認知症ケア加算との関係
この施設基準においては、施設基準のルールの中で、下記のようなことが示されています。
・身体的拘束の実施基準や鎮静を目的とした薬物の適正使用等の内容を盛り込んだ認知症ケアに関する手順書(マニュアル)を作成し、保険医療機関内に周知し活用すること。

つまり、2024年の改訂により入院基本料を算定する場合には、施設基準において指針を作成することが必要となりましたが、認知症ケア加算を届出ている場合には「身体的拘束の実施基準」と「鎮静を目的とした薬物の適正使用等の内容」が明確化された認知症ケアに関する手順書(マニュアル)が以前から存在しなければなりません。現場の手順書が存在しているにもかかわらず、経過規定があるとは言っても指針が存在しない事は不自然とも捉えられますし、指針と手順書の内容に齟齬があれば、別な意味で不自然さが目立ちます。そして、入院基本料を算定する場合の施設基準には、その指針の中に「鎮静を目的とした薬物の適正使用に関する内容を盛り込むことが望ましい」とされ、盛り込まれていなくても大丈夫のようにも見えますが、認知症ケア加算の施設基準では手順書に「鎮静を目的とした薬物の適正使用等の内容」を盛り込むことが義務化されていますので、当然ですが指針にもそれらのことが整合するように盛り込まれていなければ齟齬が発生してしまいます。
3.指針の作成時期
2024年3月31日において入院基本料の届出がされている場合には、2025年5月31日までに作成すれば良いこととされています。

しかし、上記1でお示しした施設基準の届出がある場合には、該当する点数を算定するためには、過去から身体的拘束に関してのルールが示されており、このルールが守られていないと、該当する点数の算定が出来ませんので、当然ですが、現場における対応などが明示された手順書などが存在する必要があります。また、上記2でお示しした認知症ケア加算の施設基準の届出がある場合には認知症ケアに関する手順書(マニュアル)が存在していることとなります。これらのことから、現場における身体的拘束に関して手順書や、認知症のケアに関係する手順書だけが存在し、指針が存在しない事は極めて不自然なことでありますので、このような病院におかれましては、療養病棟入院基本料と障害者施設等入院基本料の看護補助体制充実加算、急性期看護補助体制加算、看護補助加算及び認知症ケア加算などに関する手順書等の内容と整合する指針を、早急に整備する必要があるものと考えます。なお、新たに指針を作成するにあたり、現存の手順書などに見直しが必要な箇所が見られる可能性もありますので、その場合には、指針と整合が取れるように修正しておく必要があることも忘れないでください。
参考1
令和6年3月5日付け、保医発0305第4号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」より 抜粋
・別添1、第1章、第2部、第1節 A101 療養病棟入院基本料
(20) 「注 12」及び「注 13」に規定する夜間看護加算及び看護補助体制充実加算は、療養生活の支援が必要な患者が多い病棟において、看護要員の手厚い夜間配置を評価したものであり、当該病棟における看護に当たって、次に掲げる身体的拘束を最小化する取組を実施した上で算定する。
- ア 入院患者に対し、日頃より身体的拘束を必要としない状態となるよう環境を整える。
- イ 身体的拘束を実施するかどうかは、職員個々の判断ではなく、当該患者に関わる医師、看護師等、当該患者に関わる複数の職員で検討する。
- ウ やむを得ず身体的拘束を実施する場合であっても、当該患者の生命及び身体の保護に重点を置いた行動の制限であり、代替の方法が見いだされるまでの間のやむを得ない対応として行われるものであることから、可及的速やかに解除するよう努める。
- エ 身体的拘束を実施するに当たっては、次の対応を行う。
- (イ)実施の必要性等のアセスメント
- (ロ)患者家族への説明と同意
- (ハ)身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- (ニ)二次的な身体障害の予防
- (ホ)身体的拘束の解除に向けた検討
- オ 身体的拘束を実施した場合は、解除に向けた検討を少なくとも1日に1度は行う。なお、身体的拘束を実施することを避けるために、ウ及びエの対応をとらず家族等に対し付添いを強要することがあってはならない。
・別添1、第1章、第2部、第1節 A106 障害者施設等入院基本料
(13) 「注9」及び「注10」に規定する看護補助加算及び看護補助体制充実加算を算定する病棟は、身体的拘束を最小化する取組を実施した上で算定する。取組内容については、「A101」療養病棟入院基本料の(20)の例による。
・別添1、第1章、第2部、第2節 A207-3 急性期看護補助体制加算
(3) 急性期看護補助体制加算を算定する病棟は、身体的拘束を最小化する取組を実施した上で算定する。取組内容については、「A101」療養病棟入院基本料の(20)の例による。
・別添1、第1章、第2部、第2節 A214 看護補助加算
(2) 看護補助加算を算定する病棟は、次に掲げる身体的拘束を最小化する取組を実施した上で算定する。
- ア 入院患者に対し、日頃より身体的拘束を必要としない状態となるよう環境を整える。
- イ 身体的拘束を実施するかどうかは、職員個々の判断でなく、当該患者に関わる医師、看護師等、当該患者に関わる複数の職員で検討する。(精神病棟を除く。)
- ウ やむを得ず身体的拘束を実施する場合であっても、当該患者の生命及び身体の保護に重点を置いた行動の制限であり、代替の方法が見いだされるまでの間のやむを得ない対応として行われるものであることから、可及的速やかに解除するよう努める。
- エ 身体的拘束を実施するに当たっては、次の対応を行う。
- (イ)実施の必要性等のアセスメント
- (ロ)患者家族への説明と同意
- (ハ)身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- (ニ)二次的な身体障害の予防
- (ホ)身体的拘束の解除に向けた検討
- オ 身体的拘束を実施した場合は、解除に向けた検討を少なくとも1日に1度は行う。なお、身体的な拘束を実施することを避けるために、ウ及びエの対応をとらずに家族等に対し付き添いを強要することがあってはならない。
参考2
保険診療確認事項リスト(医科)令和5年度改訂版 ver.3より 抜粋
・Ⅰ、3、(3)、①
- □・看護補助体制充実加算[A101注12] 【届】
- □・身体的拘束を実施するに当たって、次の対応を行っていない。
- □・実施の必要性等のアセスメント
- □・患者家族への説明と同意
- □・身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- □・二次的な身体障害の予防
- □・身体的拘束の解除に向けた検討
- □・身体的拘束を実施しているが、解除に向けた検討を1日に1度[ 行っていない ・ 行ったことが明らかでない ]。
・Ⅰ、3、(3)、②
- □・看護補助体制充実加算 [A106注9] 【届】
- □・身体的拘束を実施するに当たって、次の対応を行っていない。
- □・実施の必要性等のアセスメント
- □・患者家族への説明と同意
- □・身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- □・二次的な身体障害の予防
- □・身体的拘束の解除に向けた検討
- □・身体的拘束を実施しているが、解除に向けた検討を1日に1度[ 行っていない ・ 行ったことが明らかでない ]。
・Ⅰ、3、(4)
- □③ 急性期看護補助体制加算 [A207-3] 【届】
- □・身体的拘束を実施するに当たって、次の対応を行っていない。
- □・実施の必要性等のアセスメント
- □・患者家族への説明と同意
- □・身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- □・二次的な身体障害の予防
- □・身体的拘束の解除に向けた検討
- □・身体的拘束を実施しているが、解除に向けた検討を1日に1度[ 行っていない ・ 行ったことが明らかでない ]。
- □④ 看護補助加算 [A214] 【届】
- □・身体的拘束を実施するに当たって、次の対応を行っていない。
- □・実施の必要性等のアセスメント
- □・患者家族への説明と同意
- □・身体的拘束の具体的行為や実施時間等の記録
- □・二次的な身体障害の予防
- □・身体的拘束の解除に向けた検討
- □・身体的拘束を実施しているが、解除に向けた検討を1日に1度[ 行っていない ・ 行ったことが明らかでない ]。

竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。