COLUMN15|様式9作成の失敗事例
平成29年6月7日
様式9作成時の失敗について
入院基本料の施設基準において、一番大切な帳簿類は何といっても「様式9」です。
各病院においては、この「様式9」をいかに正確に作成できるかが入院基本料請求の可否になっていることは言うまでもありません。
この「様式9」ですが、看護要員が病棟勤務した時間数だけを日勤と夜勤の欄に分けて記載(入力)するだけのごく単純なものです。特殊な能力や資格などは必要なく、数字が普通に理解できる方ならだれでも作れるものです。作るにあたって若干のルールがありますから、小学生には無理としても、ルールを飲み込んでしまえば中学生や高校生程度でも作成することは可能と思います。様式9の記載方法と基本的なルールはそのくらい単純なものなのです。
しかし、このように簡単に思われる「様式9」ですが、まったくの間違えなく100パーセント正確に作成できている病院はおそらく5パーセントにも満たないと推測いたします。
私が、前職時代から最近までに関わり合いのあった病院で「様式9」を拝見したところは、20床程度の施設から1000床程度の大学病院クラスの施設まで100カ所以上ありましたが、全く問題なく100パーセントのところは2件程度しか記憶に無いのです。
記憶に無いくらいですから、程度の大小はあるものの、ほとんど全てのところで何かしらのミスがあったということだと思います。
間違いに至ったミスの要因ですが、次のようなものがありました。
- 月平均夜勤時間数を月単位でなく、毎月28日間で計算していたもの
- 勤務予定のデータのみで作成していたもの
- 遅刻・早退の時間数を除算していなかったもの
- 30分程度遅刻があったので、その分を残業してトータル時間数が満たされていたため、
通常の日勤者として時間数を計上していたもの - 出張により病棟に居なかった時間数を除算していなかったもの
- 夜勤帯において、救急などの外来対応した時間数を減算していなかったもの
- 病棟以外の部署との兼務者であったにも関わらず、夜勤人員数を1人として計算していたもの
(平成28年3月以前) - 兼務先で夜勤時間帯に勤務があったにもかかわらず、総夜勤時間数に計上していなかったもの
(平成28年4月以後) - 安全・感染・褥瘡の委員会以外の院内会議や委員会の出席時間を減算していなかったもの
- お昼の休憩時間を様式9では含めて計算しているにも関わらず、お昼休み時間帯に会議をしたからと言って、減算していなかったもの
- 申し送りを行っているにも関わらず、その時間数を減算していなかったもの
- 申し送りをしていないにもかかわらず、申し送りした者と一緒に一律に時間除算していたもの
- 会議による除算する時間数が、実際の時間数(会議録)と一致せず、画一的に同じ時間数で除算していたもの
- 会議の時間数を、該当する日に除算せずに、月の合計数からまとめて除算していたもの
- 早出や遅出の勤務者も日勤の勤務者と同じように日勤帯のみ時間計上していたもの
- 日勤帯と夜勤時間帯への時間数の計上がずれていたもの
これは、4週間単位の計算を勘違いして連続して計算せずに、毎月最初の4週間(1日から28日)分だけを計算していたものです。このことに対する取扱いは平成24年改定時の疑義解釈に改めて示されておりますが、疑義解釈にわざわざ掲載されるということは、誤った解釈をしていたところが少なくなかったということでしょう。
これは、勤務計画が決まった段階でのデータにより作成しただけで、その後の勤務変更などのデータを反映させていなかったものです。看護要員の1カ月間の勤務実績がすべて予定通りに行われることはほとんどあり得ませんので、勤務実績結果による様式9の作成は不可欠となります。
勤務表から読み取れる「勤務交代」などのデータは反映して様式9を作成していたようですが、勤務表には短時間の遅刻・早退のデータがなかったため、除算対象にしていなかったようです。タイムレコーダーなどのデータを併用して確認しなければ正確に作成できません。
これは、勤務時間がズレてしまっておりますから、その分日勤帯が減り夜勤帯が増加することとなります。ただし、実際に存在する「遅出勤務」などに勤務変更して振り替えられたならその勤務パターンでの数字を計上すれば問題ありませんが、そのようにできなければ、日勤帯の終了までの時間数のみ計上して遅刻分は除算対象にしなければなりません。
日中に中抜けして、外出していたにもかかわらず、除算していなかったものです。勤務表でもタイムレコーダーでも記録がなかったため、見落としてしまったようです。出張記録などと付け合わせしなければ正確に作成できません。
夜間の外来患者の対応のために、病棟勤務を中断して外来勤務をしていたものを減算していなかったものです。外来日誌などを点検して兼務先の時間数を把握しなければ正確に作成できません。
なお、通常の入院基本料の病棟においては、夜勤帯は常時2名以上の配置が必須です。3名以上配置されている病棟ならうち1名を病棟外業務に兼務させることは可能となりますが、2名しか配置していない病棟から外来対応に出してしまいますと、施設基準の要件を満たさなくなり「特別入院基本料」に届出を変更(恒常的に実施していれば過去の分の返還を求められます)しなければならなくなりますので、絶対に行ってはいけません。
昨年の改定により計算方法が変更となり、兼務者については病院内(病棟も外来もすべて)での総夜勤時間数を分母として、病棟での夜勤時間数を分子として計算するようになりました。兼務先での勤務時間に、病棟での夜勤時間帯(「様式9」における16時間の夜勤枠)での勤務が発生した場合には、総夜勤時間数欄に該当数をプラスして計上しなければならないため、兼務先での勤務実態を細かに把握しなければ正確に作成できません。
感染防止対策加算の感染対策チーム(ICT)の一員として院内巡視していた時間数などを減算していなかったために発生したものです。感染防止対策委員会は除算する必要がないことを錯覚して拡大解釈しまったようです。
この病院では、以前はお昼休み時間の1時間を「様式9」の計上から除外していたため、休み時間に実施した会議を除算する必要はありませんでしたが、その後、お昼休み時間も計算対象にするように変更していたことから、会議時間数が除算対象になっていたことを失念してしまったようです。
実際に業務を中断してナースステーション内で申し送りをしていたのですが、時間数が短時間(15分程度)であったことから、除算しなかったようです。
一部の看護職員は担当業務の内容により申し送りをする必要がないため、患者の対応を病棟内で継続して行っていたにも関わらず、申し送りに参加していたとものと決めつけてしまったようです。
毎月の会議予定時間が30分間と決められていたため、どの月も一律に0.5時間の除算をしていましたが、会議録では30分から60分のばらつきがあることが判明したものです。会議録を確認して時間数をその都度把握しなければ正確に作成できません。
「様式9」の作成担当者が、毎日のデータから多数の記録を修正するのが面倒であったらしく、月末の合計数からまとめて除算していたものです。単純に怠慢であったとしか言いようがない非常に不適切な実例でした。見方によっては「診療報酬に関する計算は面倒なものはいい加減に行っています」と言ってしまったのも同然な行為で、行政側の印象は悪く映ってしまいます。
「様式9」の計算は、単純に「日勤」と「夜勤」の区分けで作ればよいと思い込んでしまい、早出も遅出も全て日勤として計算対象にしまったものです。
夜勤時間帯の16時間を変更したにもかかわらず、一部の勤務パターンにおいて日勤帯と夜勤帯の時間数の配分変更を忘れてしまい、正確に振り分けられていなかったものです。
このように、「様式9」を作成するにはたくさんの落とし穴があるわけですが、最近では手作業によらず、いろいろなシステムを活用して「様式9」を作成している病院がほとんどです。
代表的なものでは、医療関係団体のホームページで公開しているエクセルシートで自動計算してくれるものでしょうか。
これは、日々の時間数を手作業で入力するだけのごく単純なものです。入院基本料の届出内容(7対1とか15対1などのこと)を選択し、看護師、准看護師、看護補助者の別に日勤帯の病棟勤務時間数、夜勤帯の病棟勤務時間数、病院内の総夜勤時間数を入力すれば、人員数や看護師比率、月平均夜勤時間数などを自動的に計算してくれる便利なものです。シンプルで使いやすいようですが、全て手作業で数値の入力をしなければならないため、看護要員数が多いと相当な業務量になってしまいます。
このほかにも、いろいろな企業が開発して販売しているシステムがあります。
これらのシステムは若干の差はありますが、共通する方法としては「勤務表を作成して記号を入力する」ことにより、自動的に「様式9」に数字を転写して計算してくれるという大変便利なものです。
会議等の除算については記号を変えるか、該当者のデータを別シートに入力することにより反映する仕組みになっているものが多い(一部のものは、転写された様式9の数字を手作業で除算しなければならないものもある。)ようです。
日勤帯と夜勤帯の時間数の配分も16時間の時間枠の設定を変更するだけで自動的に修正してくれるものもあり、この仕組みは先のエクセルシートよりもかなり使いやすくなっているようです。
また、病院で採用している勤退管理システムのデータを「様式9」のエクセルシートに転写できるようにして使用しているところもあるようです。
何れのシステムを採用するかは病院の選択によりますが、どのような便利なシステムを利用しても所詮は人が使うものですから、上記のような思い込みや錯覚などにより、ルールを正しく理解していなければ正しい計算結果を導き出すことはできません。
システムを利用している多くの病院で陥ってしまった失敗例を最後に一つご紹介いたします。
ハイレベルのシステムでは、勤務パターンごとに記号を設定し、勤務開始と勤務終了の時刻、申し送りによる除算対象時刻、16時間の夜勤時間枠などを設定してシートなどに入力しなければ計算はできませんが、このようなシステムですと、システムが日勤帯と夜勤帯の時間数を自動的に振り分けて「様式9」に反映されますので、いろいろと悩む必要は少ないようです。
しかし、それぞれの記号ごとに「日勤時間数」と「夜勤時間数」の配分を個別に設定しなければならないシステムがあります。
記号ごとに、日勤帯と夜勤帯との時間数をセットしなければならないため、「様式9」に関するルールを細かく理解いたしませんと、正しい数値の振り分けが出来ません。この数値の振り分けが正しく実施さていなかったために、過去何年分も間違った数字を算出してしまい、誰も計算誤りに気が付いていなかったというような病院が数多くみられました。
病院側は「システムが自動計算してくれる」と安心しきってしまい、時間数の初期設定に誤りがあったことに気が付く人は誰もいなかったそうです。 システムを過信せずに、もう一度原点に返っていただき、ルールの確認とシステムの初期設定が正しいかの検証をされることを強くお勧めいたします。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。