COLUMN22|特別の療養環境の提供について
平成29年12月28日
特別の療養環境の提供(差額ベッド)について
まず、「差額ベッド」の名称ですが、保険診療において正確には「特別の療養環境の提供」と言われているため、最近では「特別療養環境室」と呼称されるようになってきました。
その取扱いについては「厚生労働大臣の定める評価療養、患者申出療養及び選定療養」と言われる告示と、「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」と言われる通知などに明記されております。
「特別療養環境室」には、いくつかの細かなルールがあり、それに違反するとケースによっては病院側にペナルティーが課せられることもありますので注意が必要です。代表的なルールについて説明します。
- 同意について
- 説明について
- 掲示について
- [国税庁のホームページより引用]
- 設備について
- ベッド数について
- 料金について
- 報告について
- 外来診療の特別療養環境室について
- ペナルティーについて
保険診療において患者から支払いを求めることが出来るものは原則としては「一部負担金」と「食事療養標準負担額」の2つだけしかありません。これ以外のものについては、保険外併用療養費や保険外負担のルールに沿って「患者の自由な選択と同意」、つまり患者側が希望した場合に限りその負担を求めることが出来る仕組みとなっております。ですから、該当する部屋に患者を収容しただけでは料金の支払いを求められません。
患者側が希望したことを明確にするために「同意」を文書で確認することとされております。この文書には料金等を明示し、患者側の署名を受けるようにされております。この文書の名称ですが、「同意書」の名称で取り扱っている病院が多いようですが、「同意」の意味が「病院側から働きかけて、患者側が受け入れた。」のようにも解釈できることから、患者側が自発的に希望したとの意味を強調して、最近では「利用申込書」のようにしているところがほとんどです。
特別療養環境室への入院を希望している患者に対して設備構造、料金等について明確かつ懇切丁寧に説明することが必要です。「懇切丁寧」ですから、通り一遍にサラッと説明するだけでは不十分です。室内の設備などの画像が載せられているパンフレットなどを用意しておき、それを提示しながら説明するのが一般的になってきており、パンフレットは事前に配布したり、ホームページに掲示しているところも増えてきております。
病院内の見やすいところ、例えば受付窓口や待合室などに、特別療養環境室の各々について「ベッド数」「場所」「料金」を患者に分かりやすく掲示しなければなりません。
各々とされておりますから、それぞれのベッドごとに必要となります。院内掲示につきましてはコラムのバックナンバー No.17 院内掲示のルール確認 その1 とNo.18 院内掲示のルール確認 その2 で説明しておりますので、そちらも参照願います。
なお、料金の掲示についてですが、「総額表示か税別表示のどちらが正しいのか」のお尋ねをいただくことがあります。結論から申し上げれば、現在のところではどちらでも差し支えないようになっております。表示価格に対する消費税の表示に関しては税務当局が決めることであり、保険医療機関を所管する厚生労働省には決定権限はありません。国税庁のホームページでは、基本的には総額表示をするように示されておりますが、総額表示義務の特例として下記のような説明があります。
消費税率が上がることが明確ですから、税率改定前に総額表示にすると税率が上がったときに金額の表示を全て書き換えなくてはならなくなるため、そのことを考慮した措置のようです。
院内掲示が簡単に張り替えられるようなものでしたら、患者から分かりやすい表示としてなるべく早めに総額表示にしておいた方が親切な掲示になるものと思います。なお、病院では様々なものについて患者負担を求めているものがありますが、総額表示と税別表示が混同しておりますと、患者からわかりにくくなり誤解の原因となりますので、どちらかに統一したほうがよろしいと思います。
「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(消費税転嫁対策特別措置法・平成25年10月1日施行)第10条で、二度にわたる消費税率の引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保及び事業者による値札の貼り替え等の事務負担に配慮する観点から、総額表示義務の特例として、平成25年10月1日から平成33年3月31日までの間(注)、「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」を講じていれば税込価格を表示することを要しないこととされています。
これにより、総額表示義務の対象となる表示であっても、誤認防止措置を講じていれば、税抜価格のみの表示などを行うことができます。
なお、総額表示を要しないこととされている場合(税込価格を表示しない場合)であっても、総額表示に対応することが可能である事業者には、消費者の利便性に配慮する観点から、自らの事務負担等も考慮しつつ、できるだけ速やかに、総額表示に対応するよう努めていただくこととなります。また、消費税の総額表示義務は、「消費税相当額を含む支払総額」が一目で分かるようにするためのものであり、例えば、適切に表示された税込価格と併せて、税抜価格を表示するという対応も可能です。
(注) 平成28年11月の税制改正により、消費税転嫁対策特別措置法の適用期限は、平成30年9月30日から平成33年3月31日に延長されました。
定員が4人室までとなっており、病床ごとのプライバシーを確保するための設備(カーテンや衝立など)、個人用の私物の収納設備、個人用の照明、小机及び椅子が必要とされています。これらの設備が一つでも欠けますと料金の支払いを求められません。
なお、設備はベッドごとに必要で共用は認められておりません。これらの設備については厚生局が実施する適時調査においてチェックされますので、特に注意してください。特に、2人室以上の特別療養環境室において、「邪魔」との理由で病棟の看護師さん等が椅子などを勝手に室外に移動していることがありますが、ルール違反ですからしないように注意しましょう。
また、1床あたりの面積は内法で6.4㎡以上必要です。
特別療養環境室は、病床数に対して、国が開設するものは2割、地方公共団体が開設するものは3割、それ以外のものは5割までとされています。なお、稼働病床数が許可病床数に満たない場合には、稼働病床数に対しての割合と考えてください。例えば、許可病床100床で稼働病床50床・休床50床のような場合で許可病床を基準として5割にしてしまいますと、稼働病床の50床全部が特別療養環境室になってしまいますから、このような場合には稼働病床の5割で25床までを特別療養環境室にする事が出来ます。
料金は患者の同意が書面でなされた以後について支払いを求める事が出来ます。口頭での同意では、ここでの同意にはなりません。また、「患者の自由な選択と同意」により取り扱うことになりますから、特別療養環境室しか空きがないような場合に、そこに入院させて同意書を半ば強制的に書かせるようなことをしたり、入院時点において患者から同意書がもらえなかったために、後日、入院時に遡った日付を記した同意書に署名を求めるようなことをしてはいけません。
特別療養環境室の料金などを設定したり変更しようとする場合には、所定の書式により事前に厚生局に報告する必要があります。
また、定期的に厚生局に病床数や料金の状況を報告することとなっているため、7月1日での定例報告時にこれらのことを記載する報告書を提出していると思いますが、この定例の報告書は上記にある「所定の書式による報告」にはなりませんので注意してください。
なお、よく「差額ベッドの料金は割引できますか」のように尋ねられますが、そのようなことは認められていません。しかし、「患者の自由な選択と同意」によらない場合には料金の支払いを求められませんから、そのよう場合は0円となります。つまり、希望しない期間は0円で、患者が希望した期間は全額支払ってもらうかのどちらかしかありません。どうしても減額したいのであれば、院内掲示と厚生局への報告を事前に減額した金額に変更してからであれば、変更後の料金が正しい金額として取り扱われることとなります。
なお、ルールを満たしたうえでの究極の裏ワザとして、請求額を減額する方法が1つだけあります。減額したいトータル金額に近い日数分だけの同意がなければその期間は支払いを求められませんので、すべてが必ずしもピッタリとはいきませんが、結果として減額したことと同じ支払額にすることができます。つまり、10000円の部屋に20日間入院した場合において、5000円に割引して20日間分の100000円の請求はできませんが、仮に10日間は同意なかったのであれば正規金額10000円で10日間分の100000円の請求をすることは可能となります。
平成28年6月24日に取り扱いが変更となり、従前では入院病床でしか特別療養環境室は認められておりませんでしたが、同日以後は外来の診療室においても一定の要件を満たした場合には、入院の特別療養環境室のように利用料金の支払を求めることが出来るようになりました。
施設基準の取扱いにおいて「届出を行う前6カ月間において療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等(平成18年厚生労働省告示第107号)第三に規定する基準に違反したことがなく、かつ現に違反していないこと。」と規定されています。この「厚生労働大臣が定める掲示事項等 第三」の中には「一 通則、二 特別の療養環境の提供に関する基準、三 予約に基づく診療…(全部で九まであります。)のようになっており」特別療養環境室に関することとして、次のようなことが明記されています。
- 特別の料金等の内容を定めたり変更しようとする場合は地方厚生局長等に報告する
- 1室の病床数は4床以下
- 該当する病床数は5割以下
つまり、これらのことに違反がありますと、施設基準の届出が新規に提出できないことになります。厳格に適用されれば、特別療養環境室の料金を厚生局に報告しない金額で請求しただけでも、届出不受理のペナルティーを受けることがあり得るということですので、報告してある金額が正しいかどうかよく確認しておきましょう。なお、報告した内容については厚生局のホームページで確認ができます。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。