COLUMN24|様式9とは
平成30年3月29日
様式9とは
4月は人事異動の季節です。新しく施設基準を担当される方もおられると思いますので、施設基準で一番大切な書類「様式9」とは何者なのかを、あらためて説明します。
病院で入院基本料を請求していないところはまずないものと思います。入院基本料の根本的な仕組みは看護師等の数などによって点数(金額)が決められています。この看護師数などを算出するために記載する用紙が「様式9」と言われているものです。
様式9は、病棟の看護師等の日々の勤務時間数を記載するだけの単純なものですが、数字の評価(記載すべき数字と記載してはいけない数字)に細かなルールがあります。このルールを正しく理解いたしませんと正確な記載が出来ませんので、基本的なルールについて説明します。
- 「病棟日勤」時間数と「病棟夜勤」時間数
- 「総夜勤」時間数
各病院で16時間の夜勤枠を設定します。この16時間の枠は、22時から翌日の5時までの時間を含んでいれば、どの時間から始めるのかを自由に選べます。そして、24時間の中でこの16時間の枠内を「夜勤帯」、枠外の8時間を「日勤帯」として区別します。
病棟勤務した看護師等が日勤帯に勤務した時間数を1段目の「病棟日勤」に、夜勤帯に勤務した時間数を2段目の「病棟夜勤」に記載します。例えば、夜勤帯を17時から翌朝9時までに設定した場合で、通常の日勤の看護師等の勤務開始が8時30分、勤務終了が17時30分とした場合には、「病棟日勤」が8、「病棟夜勤」が1となります。日勤者なのに「病棟夜勤」に1が入るのを不思議に思うかもしれませんが、8時30分から17時30分まではトータルで9時間ありますから、夜勤帯に1時間の勤務が発生します。この事例では8時30分から9時までと17時から17時30分までの合計1時間が夜勤帯の勤務時間数になります。
「病棟夜勤」の欄の記載ですが、24時(0時)を境として前日と翌日に時間数を分けて記載します。例として、17時30分から翌朝の8時30分までの通し夜勤を勤務した場合には、夜勤入りした日の「病棟夜勤」は6.5となり、夜勤明けした日は8.5となります。
3段目の「総夜勤」には、設定した夜勤帯の中で病院内において勤務した時間数を記載します。夜勤の時間数を記載する欄が2段もあることに疑問を感じられると思いますが、一般的な入院基本料には看護師等の1人当たりの1カ月間の平均夜勤時間数が72時間以内と決められておりますので、この計算のために病棟内で勤務した夜勤の時間数と病院全体で勤務した夜勤の時間数を比較するルールになっているため、これらの時間数を別々に把握しなければならないことから欄が2段存在するのです。
通常は、病棟の勤務しかしない看護師等においては2段目の「病棟夜勤」と3段目の「総夜勤」は同じ数字になります。
病棟勤務の看護師等が病棟以外の場所で勤務している場合、例えば、外来やオペ室勤務を兼務する場合などで、兼務先での勤務時間が設定した16時間の夜勤枠に入り込んでいる場合には、その時間数をここに記載しなければなりません。例としては、上記事例の日勤の看護師等が午前中の8時30分から12時までを外来勤務して午後を病棟勤務したような場合には、2段目の「病棟夜勤」は0.5となり、3段目の「総夜勤」は1となります。
他に時間数の記載に影響を与える要因がなければ、記載する数字は上記のルールに従って記載するだけですので、決して難しい書類ではありません。
ただし、数字に影響する要因を見落としますと正しい記載になりませんので、代表的なものを幾つか説明します。
- 遅刻・早退の時間数
- 出張などにより病棟に居なかった時間数
- 夜勤帯において、救急などの外来対応した時間数
- 安全・感染・褥瘡の委員会以外の委員会の出席時間
- 申し送り時間数
- 申し送りの有無による減算時間の相違
- 会議出席(病棟不在時)時間の把握
- 勤務形態ごとの時間数の記載
数字は日勤や夜勤の決められた勤務時間枠の中で実際に勤務した実時間数を記載しますので、遅刻、早退があった場合には、該当した日においてその都度、該当する時間数を減算した数字を記載する必要があります。
出張などで病棟から外出していた時間は減算対象となります。いわゆる中抜けはタイムレコーダーにも記録がされないため、見落としてしまうケースが多くなっています。出張記録などを確認して把握しなければなりません。
夜間の外来患者の対応のために、病棟勤務を中断して外来勤務をしていたものは減算しなければなりません。外来日誌などを点検して兼務先の時間数を把握しなければ正確に作成できません。
なお、16時間の夜勤時間の枠内に外来に行っていた時間は病院内の夜勤時間数になりますから「総夜勤」の欄には減算せずに記載する必要があります。
感染防止対策加算の感染対策チーム(ICT)の一員として院内巡視していた時間数などは委員会の時間とは違いますから減算してなければなりません。感染防止対策委員会は減算する必要がないことを錯覚して拡大解釈している場合が見受けられますので注意しましょう。
勤務交代する際に勤務時間を重ねて実際に業務を中断してナースステーション内で申し送りをしている場合には、時間数が短時間(15分程度)であっても減算しなくてはなりません。減算するのは申し送りする者(先に勤務している方)だけを減算します。例としては、日勤者から夜勤者に勤務交代する場合には、実際に申し送りした時間数を日勤者の勤務時間数から減算します。
同じ日勤者であっても看護職員の担当業務により申し送りをする場合としない場合があることから、申し送りをしない場合には減算となりません。
毎月定例的に実施されている会議は時間が決められていることがありますが、減算する時間数は実際に病棟を不在にしていた時間数になります。その時により会議時間が変動することは一般的であることから、会議録を確認するなどして正確な時間数を減算しなければなりません。
早出や遅出の勤務者は日勤の勤務者と同じように見えますが、実際の勤務時間の始まりと終わりは通常の日勤者とは相違していることから、当然ですが「病棟日勤」時間数と「病棟夜勤」時間数に違いが発生します。
最近では手作業によらず、いろいろなシステムを活用して「様式9」を作成している病院が多いようです。
代表的なものでは、医療関係団体のホームページで公開しているエクセルシートで自動計算してくれるものです。
これは、指定された欄に時間数を手作業で入力するだけのごく単純なものです。入院基本料の届出内容(急性期一般入院料1とか7対1などのこと)を選択し、看護師、准看護師、看護補助者の別に「病棟日勤」時間数、「病棟夜勤」時間数、病院内の「総夜勤」時間数を入力すれば、人員数や看護師比率、月平均夜勤時間数などを自動的に計算してくれる便利なものです。シンプルで使いやすいようですが、全て手作業で数値の入力をしなければならないため、看護要員数が多いと相当な業務量になってしまいます。
このほかにも、いろいろな企業が専用のソフトやシステムを開発して販売しており、それらを活用している病院も数多く存在いたします。
これらのシステムは若干の差はありますが、共通する方法としては「勤務表を作成して記号を入力する」ことにより、自動的に「様式9」を作成してくれるという大変便利なものです。
会議等の減算については、記号を変えるか、該当者のデータを別シートに入力することにより反映する仕組みになっているものが多い(一部のものは、様式9の数字を直接手作業で減算しなければならないものもある。)ようですが、「病棟日勤」と「病棟夜勤」の時間数の配分も16時間の時間枠の設定を変更するだけで自動的に修正してくれるものもあり、この仕組みは先に紹介したエクセルシートよりもかなり使いやすくなっているようです。
また、これとは別に病院で採用している勤退管理システムのデータを「様式9」のエクセルシートに転写できるようにして使用しているところもあるようです。
何れのシステムを採用するかは病院の選択によりますが、どのような便利なシステムを利用しても所詮は人が管理するものですから、ルールを正しく理解しなければ正しい計算結果を導き出すことはできません。
実際に販売されているシステムの一例ですが、勤務パターンごとの記号、勤務開始と勤務終了の時刻、申し送りによる減算対象時間、16時間の夜勤時間枠などを設定してシートなどに入力することによりシステムが日勤帯と夜勤帯の時間数を自動的に振り分けて「様式9」に反映されますので、手作業の煩雑さを考えればかなりの負担軽減となっているようです。
20日間無料で試してみる
しかし、「病棟日勤」の時間数と「病棟夜勤」の時間数の配分が自動計算されず、別のシートに個別に時間数の配分を設定しなければならないようなシステムもあります。
記号ごとに、病棟日勤と病棟夜勤の時間数を決められたシートにセットしなければならないため、「様式9」に関するルールを細かく理解いたしませんと、正しい数値の振り分けが出来ません。この数値の振り分けが正しく設定さていなかったために、過去何年分も間違った数字を算出してしまい、誰も計算誤りに気が付いていなかったというような病院が数多くみられました。病院側は「システムが自動計算してくれる」と安心しきってしまい、時間数の初期設定に誤りがあったことに気が付く人は誰もいなかったそうです。
様式9は担当者の正しい知識により正確な計算が出来るものであることを再度ご認識いただきたいと思います。
竹田 和行(たけだ かずゆき)
1961年 東京都生まれ。
1993年 東京都福祉局社会保険指導部医療課において医療行政、特に看護、給食、寝具設備(当時のいわゆる3基準)とその他の施設基準についての指導を担当し、1999年に部署が変わるまでの間に指導、監査および調査のため数多くの病院の立ち入りに同行した。
その後、社会保険庁の出先機関において年金、健康保険の行政事務を担当し、2008年 関東信越厚生局医療課長補佐、2010年 関東信越厚生局群馬事務所審査課長を歴任し、2012年の退職までの4年間にも主として施設基準の指導を担当し、指導、監査および調査のため病院の立ち入りに同行した。施設基準を担当した10年間で約400か所の病院の立ち入りに同行した実績を持つ。
2012年 社会医療法人輝城会 医療・介護経営研究所 所長。
現在は 株式会社 施設基準総合研究所 代表取締役。
医療コンサルタントとして、施設基準のルールなどについて契約先の病院に助言などを行うほか、セミナーや講演会などで施設基準や個別指導などをテーマに解説を行っている。